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氷と花の  作者: 千雪はな
第3章 王女の帰還
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叶えたい願い

「…た、楽しい方でしたね」


ロザリーが呆気に取られて立ち去るフレディの後ろ姿を見ていた。


「騒がしくて申し訳ない。悪い奴ではないんだが…」


「ええ、とても素敵な方だと思いました。レイ様のことをとても心配されて」


「まあ、フレディが心配してくれているのはわかっているが、最近、それ以上に俺を揶揄(からか)って楽しんでいるのが腹が立つんだ…」


そんな(いきどお)っている俺を見て、ロザリーはクスクスと笑った。


ロザリーは、はしたないと怒られると言っていたが、俺はその木の葉が揺れるようなその笑い声をとても心地よく感じていた。


「こんな所で立ったまま申し訳ない。温室の方でお茶を用意させたんだ。よかったら一緒にいかがだろうか」


「ええ、是非」


こうして温室へと移動して、ようやく落ち着いた時間を持つことになった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


噴水の横に用意されたテーブルは花で飾られ、色々なケーキや焼き菓子、ティーセットが並んでいて、ロザリーが可愛いと喜んでいた。


お茶を飲みながら、昨日も部屋で侍女たちと話したこと、今日のために選んだハーブティーのことなどを楽しそうに話してくれていた。


その明るい表情に俺は安堵していた。


「今日の服も貴女によく似合っている」


そう俺がいうとロザリーは「見てくださいますか?」と立ち上がり、スカートを揺らして嬉しそうにした。


生成りの生地のワンピースで、スカート全面にたくさんのバラが刺繍されていた。赤、ピンク、白のバラと葉の緑の配色も上品で美しかった。


「このお洋服、ソフィがこの時間のために選んでくれたんです。私がきっと好きだと思うって、一晩で私に合うようにサイズも直してくださって」


ロザリーの服を一から仕立てる時間はないので、侍女達には公爵家の成人した令嬢達がロザリーの歳の頃に着ていた服を渡していて、それを仕立て直して用意していた。


生地も仕立ても良い物なのだが、それでも王女にお下がりなんてと最初は心配する声もあった。


しかし、ロザリーはとても喜んで着てくれて侍女達も嬉しそうにしていた。


「ロザリー、貴女のために作られたような服だ」


「レイ様、それは褒めすぎです」


その笑顔を見て、俺はロザリーのその優しい心も含めて可愛いと、守ってやりたいと思った。ふと、リリィがいたら同じように思うだろうと自然に考えていた。



「そういえば、ロザリー殿の希望は今日、用意できたんだろうか?」


「はい、おいしいお菓子も綺麗なお花もとっても嬉しいです」


「それはこちらで用意した物だろう。貴女の欲しいものは伝えなかったのか?やりたい事とか」


「やりたい事…」


そう言ってロザリーは壁際に控えていた侍女のメアリをチラッと見て、すぐに視線を戻した。


「何かあるんだろう?」


「いえ、その…今日は無理なので、困らせてしまうだけですし…」


「叶えられないのは残念だが、教えてくれないか」


「あの…オーロラが見てみたかったんです。少し前に、このお城のバルコニーからオーロラが見えるって聞いたので。でも、今朝メアリに聞いたら、今晩は吹雪になるだろうって…」


そう言って残念そうにメアリの方をもう一度見た。メアリも残念そうに笑顔を返していた。


「今晩は確かにオーロラは無理だな…。またいつか、ロザリー殿がこの城に来て天気が良ければ、一緒に見よう。約束する」


「また今度……」


少し驚いた様子のロザリーを見て、こんな辛い思い出の場所にまた来るのは嫌だったかと不安になった…とその時、彼女の顔がパッと明るくなり、


「約束ですよ、レイ様。楽しみにしていますね」


と俺の両手をぎゅっと掴んで、透き通るエメラルドグリーンの瞳を輝かせた。


この約束はいつか果たせるだろうか……

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