頼りになる補佐役
二日の休養の後、今朝から執務を再開していた。
執務室のいつもはオスカーが使う机でフレディが書類を整理していた。部下達に資料を用意させ、それに対して的確な補足文書を付けて、できたものから俺の机へ持ってくる。
流れるような作業に感心しつつ、書類に目を通すと俺は最終判断とサインをするだけだった。
「俺がいなくても物事は進むんだろうな…」
思わず独り言を漏らすと、フレディが手元の紙に視線を落とし補足事項を書きながら答えた。
「そんなことはございません。最終のご判断は殿下がされないと意味がございませんから。
あ、お伝えするのが遅れましたが、今回は数日間だけ補佐をいたしますが、近く正式に殿下の執務補佐を拝命することになると思います」
フレディはいずれ俺の補佐となるべく経験を積むために、外交を担当するロイド侯爵の下に配属されていた。既に多くの事務官を部下に持ち、束ねていると聞いている。それがいよいよ一部の事務官と共に俺の下に配属される、ということだ。
「それは…大変だな」
「そうですね。今の倍…三倍くらいに案件は増えるでしょう」
「………そうか。呑気に甘えられるのも、もう終わりということだな」
今は陛下に裁可を仰いでいる案件が、徐々に俺へと引き継がれていくのだ。気が引き締まる思いがした。
「でも、今日はまだまだ呑気にしていらっしゃって大丈夫ですよ。この後、殿下が楽しみにされている予定がありますから、さっさと終わらせてしまいましょう」
引き締まった気持ちがフレディの軽い口調に一気に緩んだ…
フレディは、オスカーとはまた違ったマイペースな性格だが、要領よく、そして確実に物事をこなしていく。そして幼い頃から一緒に育ったこともあり、俺に対して遠慮のない態度が心地よかった。
彼が補佐として付いてくれれば、こんなふうにたわいもない事を話しながら、息が詰まることなくこれから増えていく責務を果たしていくことができそうな気がした。
◇ ・ ◇ ・ ◇
フレディの補佐のお陰で予定よりも早く午前の執務を終わらすことができた。ロザリーの方も準備はできているというので、早めに休憩を取ることにした。
「私がやる気を出せばあの程度の書類なら朝飯前ですよ」
ロザリーの部屋へ向かう隣にフレディが軽口を叩きながら並んで歩いていた。
「なんでお前も同じ方へ向かっているんだ?どこかへ用事か?」
「えっ、この時間のために頑張ったのに、挨拶もさせてもらえないんですか⁉︎」
わざとらしく落ち込んでいる。確かにフレディのお陰で時間はできたが……ロザリーにリラックスしてもらいたいのに、こんな騒々しい男がいたら彼女は遠慮してしまうだろう。
「挨拶だけだぞ」
「はい、かしこまりました。…お茶一杯分くらいは頑張ったと思うんですけどねぇ」
フレディは全く反省していない様子で笑った。
そう言っているうちにロザリーの部屋の前まで来ていた。
俺の到着を聞いたロザリーが部屋から笑顔で出てきた。
「レイ様、お待ちしておりました。今日はお仕事を再開されたと伺いました。お忙しいのにありがとうございます」
そう言っていつものように綺麗な所作でお辞儀をした。
「こちらこそ、時間を作ってくれてありがとう」
そしてロザリーは俺の隣に立つ男をチラッと見た。フレディも紹介してくれと言わんばかりの顔で立っている。その顔が少し腹ただしい。
「…ああ、この男は俺の執務の補佐をしているアルフレッドという者だ。先程まで一緒に執務していて、貴女に挨拶がしたいと着いてきてしまった。図々しくてすまない」
「殿下、いろいろ酷くないですか?
ロザリー様、アルフレッドと申します。兄のオスカーから、殿下の心を開いてくださったと聞いております。臣下を代表して御礼申し上げます」
フレディは澄ました顔で礼をしている。俺は慌てて小声でフレディに言った。
「なんだそれは!」
「えっ、だって殿下、少し前まで笑いもしなければ怒りもしない。無表情で心配してたんですよ。それが最近はすごく表情豊かになられて………」
「心配を掛けてたのか…すまなかった」
「いえ、最近は揶揄い甲斐があって嬉しいです」
「なっ!!」
言葉を失う俺を見て、フレディは大笑いしながら手にしていた包みを手渡した。
「これ、殿下が手配されていた物を預かってまいりました」
そしてロザリーの方へ姿勢を正した。
「ロザリー様、残りわずかですが、どうぞごゆっくりお過ごしください。冗談ではなく、貴女様には心から感謝しております」
フレディはもう一度丁寧にロザリーへ一礼し、俺へは「では!」と軽く手を上げて立ち去っていった。




