思い切り泣いた後は
ロザリーを部屋まで送り届けたところで、俺は彼女の目線まで屈んで顔を覗き込んだ。
「ロザリー、さっきも言ったが、皆、貴女に甘えてほしいと思っているんだよ。今からでも、この部屋では思いっきり甘やかしてもらいなさい」
少し子供扱いし過ぎかとも思うが、王族なんて周りが大人にさせるんだ。彼女はもっと子供でいいと思った。せめてこの国にいる間は。
ロザリーは少し照れた様子で頬を赤らめて、周りにいる者達を見回した。侍女、医官はロザリーに笑顔を返し、衛兵達は少し大袈裟に敬礼した。
ロザリーに笑顔が溢れた。
「ロザリー、明日の午前中に、また時間をもらえないだろうか。明日の午後には貴国の使者が到着する予定だ。その前に、貴女と楽しい時間を持ちたいんだ」
「明日…もう迎えがくるんですね」
「ああ、あっという間だが、少しでもこの国で楽しかったと思える時間を貴女に持ってもらいたい。
何か希望があれば、明日の朝までに教えてくれ。間に合うものは用意しよう。
俺にも貴女を甘やかす時間をくれないか?」
そう問うと、ロザリーはクスクスと可愛らしく笑った。
「はい、楽しみにしています」
◇ ・ ◇ ・ ◇
俺が自室に戻るとオスカーが待っていた。
「おかえりなさいませ、殿下」
「ああ…」
その後の言葉が続かなかった。ロザリーの部屋を出た時は疲れた感じは全くなかったが、医官が言った通り反動があるようだ。
しかしオスカーは、疲れて帰ってくることを予想していたようで慌てることもなかった。
「寝室の方にお食事も用意いたしますので、このままお休みください」
「……すまない、そうさせてもらう」
寝室に入り一人になるとどっと疲れが襲ってきた。寝台に倒れ込んで大きなため息を吐いた。
周りに迷惑をかけている申し訳なさと、なんとか前に進みたい焦りと……
ずっと立ち止まっていることに気付かぬふりをしてきた事に、今、向き合うべき時だと、今、前に進みたいと思った。上手く進めているのだろうか……
考えがまとまらず、ため息だけが漏れた。
◇ ・ ◇ ・ ◇
「明日、ですか⁈……まあ、明日しかないですからね」
寝台に持ってこられた昼食を食べながら、さっきロザリーと約束した明日の予定を伝えると、呆れたような返事が返ってきた。当然だ。
「急ですまない」
「でも、もう約束してこられたんでしょう?」
オスカーはわざとらしく意地悪く言った。
「ああ、勢いというか…俺がそうしたかったというか…確認もせずにすまない…」
「我々が準備できると信頼してくださって光栄です」
「本当に勝手ですまない……」
珍しくオスカーが吹き出した。
「殿下、へこみ過ぎです。そんなに謝らないでください。私もロザリー様との時間を持っていただきたいと殿下に申し上げましたのに、意地悪を言いました。申し訳ございません。
私もロザリー様には喜んでいただきたいですから、早速準備にかかります」
「ただでさえ忙しいのにすまな…」
「殿下、もう謝らないでください。その代わり、今日この後はしっかり休んでくださいね。うろうろ出歩いて熱でも出されたら、流石に怒りますよ」
「ああ、今日は大人しく休む」
「はい、ゆっくりお休みください」
オスカーは満足そうな笑みを浮かべて静かに部屋を出ていった。
そうは言ってもまだ昼過ぎだ。寝られるだろうか…と思っていたが、どうやら思った以上に疲れていたらしい。
カーテンが引かれた薄暗い部屋の中、遠くで響く行き交う足音を聞いていたらすぐに眠りに落ちていた。




