溢れる涙と約束
残酷な描写が一部あります。苦手な方はご注意ください。
我慢していたものが一気に溢れ出すように、ロザリーの目からは次から次へと涙が溢れ落ちてきた。
そして彼女はしゃっくりを上げながら、途切れ途切れに話し始めた。
「…皆が……私を庇…って……」
襲われた時の話だろう。側にいた者達が倒れていったのを目の当たりにしたのだろうか。俺はロザリーの背中をそっと叩きながら話の続きを待った。
「……父様も………っ父様…」
「貴女のお父上がどうされたのだ?」
俺は努めて落ち着いた口調で問いかけたが、彼女の父上といえば、当然、ユリセラ国王だ。国王に関する報告は一切上がっていないが、嫌な予感がした。
「馬…で一緒に……乗ってい…いたの…に……」
「お父上と馬で逃げていたのか?」
ロザリーは小さく頷いた。
「…でも………後ろから矢…矢が当…って………」
そこまで言うと、ロザリーは俺の胸元に顔を埋めて泣き、その後は言葉にならなかった。俺はロザリーの肩を抱き締めた。
ロザリーを救出したその日に見た馬に付いていた流血の跡は彼女の護衛の騎士のものかと思っていたが、まさかロザリーの父―ユリセラ国王のものだったとは…
父親が矢で射られ、そのあと一人で手綱を握って逃げてきたことを思うと心が締め付けられる思いがした。
「…それを貴女はずっと一人で抱え込んでいたのか…。辛かっただろう…。
貴女のお父上については今のところ何も報告が上がっていない。貴女がここにいることも隣国も含め、何処からも聞こえてこないから、貴国が伏せているんだろう」
襲撃のことは思い出すのも辛いだろうし、すぐに帰国してしまうのだから何があったかを彼女から聞き出さなくてもいいだろうと思っていた。
しかし、こんなに重大な、彼女にとっては残酷なことを一人で抱え込ませていただなんて。無理をしてでも聞き出せばよかった。その後、辛かった思いごと抱き締めてやればよかった。
知らなかったとはいえ、ロザリーにしてやるべきことを見誤っていたことを後悔していた。
ロザリーはしばらく嗚咽を漏らして泣き続けていたが、次第に落ち着いてきたようだった。
この話は彼女には辛すぎる。もうおしまいにした方がいいだろうか、そう迷っていると、ロザリーは落ち着いた口調で言った。
「レイモンド様、父について何か分かりましたら教えていただけますか。それがどんな内容であっても」
その何かを覚悟したような言葉に、思わず尋ねてしまった。
「ロザリー殿…貴女はお父上の落馬した時の様子を見たのか?」
「………いえ、父様が振り返ってはいけないって。だから、父様が落ちた後は…」
その後の言葉は、また込み上げてきた涙で続かなかった。
「すまない、辛いことを聞いた。落馬しないようにお父上は振り返らないように言われたんだね。貴女はそれを守ったんだ。
お父上が言われたことも、それを守った貴女も正しかったんだよ」
「でも、手綱…離しちゃ…った……絶対…離…さないって…」
「そう約束したのか?」
ロザリーは小さく頷いて、彼女の右手は俺の服をきつく握り締めていた。
俺はロザリーを助けたあの日、彼女の手のひらが赤く擦り切れていたことを思い出していた。
「その約束も、立派に守れていたよ。貴女が手綱を離さずあそこまで来てくれたから、俺達は貴女を見つけることができたんだから」
「………本当?」
ロザリーはそう震えた声で言い、泣き腫らした目で俺を見上げた。
「ああ、本当だ。よく頑張った」
それを聞いて、ロザリーはまた顔を俺の胸に埋めて泣いた。
◇ ・ ◇ ・ ◇
一頻り泣いた後、ロザリーはゆっくり顔を上げて、真っ直ぐに俺を見た。落ち着いた様子だが、また何かのきっかけですぐに泣き出しそうな顔をしている。
「そろそろ部屋に戻ろうか」
俺がそう言うと、ロザリーは小さく頷いた。




