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氷と花の  作者: 千雪はな
第2章 傷を癒すために
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伝えたいこと

ロザリーに俺の話をするといっても、過去の辛い体験を話して俺の心を軽くしたいわけじゃない。伝え方を間違うと彼女の苦しみを増やすだけだろう。


俺は並んで座ったロザリーの方を向き、言葉を探しながらゆっくりと話し始めた。


「ロザリー殿、俺も昔、貴女と同じように雪の中で襲撃を受けたことがあるんだ」


ロザリーは少し驚いた様子で顔を上げた。


「もちろん思いや悲しみはそれぞれ違うだろうけど、何か助けられることがあるんじゃないかと思っている。少し話を聞いてくれるだろうか。」


黙ったままロザリーは小さく頷いた。


真っ直ぐに視線を返してくれるロザリーに、私も頷き返して話し始めた。


「…7年前、俺は妹のリリアと出掛けた時に襲われた。そして怪我をしたリリアは…助からなかった」


ロザリーは目を見開いて強張った顔をし、膝の上の手を固く握り締めていた。俺はその手を取り、温めるように俺の手で包み込んだ。


「ロザリー、貴女の辛いことを思い出すようなことを聞かせてすまない。だが、俺が聞いてほしいのは、その後のことなんだ」


ロザリーの手が小さく震えていた。


「俺は強いショックを受けて、記憶を無くしていた。最初は言葉まで忘れて大変だったらしい」


俺は、オスカーから「あの時は大変だったんですから」と何度も聞かされたことを思い出し、ふっと笑った。


「一週間くらいで大体の記憶は戻ったんだが、リリアについてはすっぽりと抜けたままだった。


しばらくは全く思い出すことがなかったんだが、一年後くらいから、場所だったり、誰かの言葉だったり、何かきっかけがあるとリリアとの思い出の記憶が蘇る、それを何度も繰り返してきた」


「……そんなことが…」


「記憶が戻った時はいつも気持ちが落ち込んだり、体調を崩したりしてしまうんだ。ちょっと気が重くなる程度の時もあれば、熱を出して寝込むこともあった。


この間の書庫でもリリアとあそこで過ごした思い出が蘇って…


あの時は貴女がすぐにオスカーを呼んでくれて助かった。ありがとう」


「きっかけ…やっぱり私が言ってはいけないことを言ったから、レイモンド様が…」


「それは違う。記憶がないことだから、何がきっかけになるのか、誰にもわからないんだ。だから貴女は何も悪いことはしていない」


「そうでしょうか…」


不安そうなロザリーに改めて向き直り、彼女と視線を合わせて、ゆっくりと語りかけた。


「そうだよ。それで、俺が貴女に伝えたいのは、俺が辛いと思った時には、俺は思い切り甘やかされたということなんだ」


「…甘やかされた………?」


「ああ、気持ちが落ち込んだ時も、寝込んで起きられない時も、好きなだけ泣いて暴れて…ははは、周りは大変だな。でも周りはいつも俺が落ち着くまで待ってくれた。手を取って大丈夫だと、抱き締めていつも側にいると言ってくれた。


それは何年も経っても変わらず、今でさえ甘やかされている」


「今でも?」


「ああ、昨日丸一日休んですっかり体調はいいんだが、今日も一日休めって。表面的だけじゃなくて、きちんと気持ちも整理してから戻ってこいってことだと思う。


貴女は自分の国ではないから難しいと思うが、それでももっと甘えていいと思うんだ」


「もっと甘えても……でも、私はこちらでとても大切にしていただいています」


「ああ、大切に思っているよ。でも、貴女が泣いたのは昨晩が初めてだって侍女が言っているのを聞いた。ずっと泣くこともなく我慢していただなんて…


大切にすることと甘やかすことは違うんだと、俺は昨晩、初めて気づいたんだ。これまで貴女が我慢していることに気付けずすまなかった。


だから今日は、貴女も甘やかされていいんだって、それを伝えたいと思った」


「甘やかされてもいい…?」


「ああ、思いっきり泣いて周りを困らせていいんだよ。ここにいられるのはあと少しかもしれないけど、数日だけでも甘えてみてほしい」


戸惑ったような瞳に少しかかるロザリーの髪をそっと横に流し、その手で彼女の頬を包み込んだ。


「ここにいる者は皆、貴女を甘やかしたいと、思いっきり甘えてほしいと思っているんだよ」


ロザリーの瞳がみるみる潤み、大粒の涙が次々と溢れてきた。

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