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氷と花の  作者: 千雪はな
第1章 出会い
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怪我の描写があります。苦手な方はご注意ください。

男達が明るい声で話をしながら手際よく周りの物を片付けている。


ここはオルトランド王国南部に位置するリエール地方のガララの砦。オルトランドは緯度が高く、一年の大半が冬の国である。海に面した北の都市や温泉地は比較的穏やかな気候だが、山と森に囲まれたリエール地方は一年中雪に閉ざされる。


その厳しい気候の一方、南に接するユリセラ王国との関係は昔から良好で、国境を守るガララの砦の周辺は、東の好戦的な国と接する地方と比べると平和な地域であった。砦の主な任務は、時々近くの村を荒らす山賊の討伐や野生の獣による害を防ぐことで、村の生活を守る団員達は地元の人々に慕われていた。


砦は物資の補給も兼ねて一週間ごとに交代する。今日はその交代の日で、屈強な男達は砦の任務明けに一日与えられる休暇を前に気持ちも軽く冗談を飛ばしながら手を動かしていた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


交代の班が来るのが見える砦の最上階の北向きのバルコニーに立っていると、側近のオスカーが横に並び、階下の団員達を見ながら話し始めた。


「皆、楽しそうにしているのですから、貴方も少しは明るい顔をしてはいかがですか?」


口調こそ丁寧だが、弟を諭すかのようだ。3歳年上で5センチ程背が高いオスカーの涼しげな落ち着いた目で見下ろされると「ふんっ」と鼻を鳴らして返すしかできなかった。まるで不貞腐れた子供だ。


オスカーが困った顔をして笑いながら、後ろから聞こえてきた足音に振り返った。


「殿下、只今戻りました」


「ああ、ご苦労だった」


巡回に出ていた班の班長のレスターだった。報告書の薄い束をオスカーに渡し報告を始めた。


「最近、オオカミによる家畜の被害が大きくなっているようです。昨晩も柵が壊された箇所があり…」


オスカーは報告書をさっと確認してこちら差し出した。受け取ったそれに目を通しながら報告を聞く。


「応急処置ですので、次の交代の際に資材を持ってきて修理の必要が…」


その報告は、見張り台の上からの声で遮られた。


「殿下!」


「どうした?」


「交代の班が見えたのですが、数名だけこちらに向かっており、残りは西へ向かっております」


見張り番は単眼鏡を覗きながら、報告を続けた。


「こちらに向かっている者は、馬を連れているようです」


どういうことかと目を凝らすと、確かに3名が騎乗してこちらに向かっているが、もう一頭連れているのが遠くに見えた。


「わかった。下に降りて待とう」


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


砦の門まで降りると間もなく、3名の団員が到着した。


「何があった?」


「この馬に血が付いていましたので、乗っていた者は怪我をしているであろうと捜索に向かった次第です」


「血が?」


馬を見ると左足に少し血が飛んだような跡が見えた。


「あの、こちら側に……」


馬を連れてきた団員の心配した様子を疑問に思いながら馬の右側に回ると、明らかに剣で斬られたか、矢が命中したであろう赤黒い流血の跡が見てとれた。そして更に鞍の辺りに目をやって言葉を失った。


鞍の左から右へ血の付いた指が滑り通った跡があり、その終わりにははっきりと手形が付いていた。


「少年かと…」


自分の手をかざしてみると、すっぽりと隠れてしまう小さな手形はまだ乾いていなかった。

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