思い巡らす
俺は自室に戻り、寝台の上に寝転びながらついさっきの事を思い返していた。
報告でロザリーが毎夜うなされていることは聞いていた。襲撃を受けた直後だから悪夢くらい見るだろうと思っていた。
彼女に笑顔やはしゃいだ様子を見ていたから、あれほど彼女を苦しめているとまでは思いが至っていなかった。
侍女の話では、今日はいつも以上にうなされていたと言っていたが、帰国を決めたから不安が増したのだろうか…
その侍女はこうも言っていた。「ロザリー様が泣かれるのを初めて見ました」と。彼女は苦しい思いを吐き出すことも、寂しいと甘えることもできずに一人で抱え込んできたのか…
自国ではないから心から打ち解けることはできなくても、少しくらいは甘えられる環境は用意したつもりでいた。俺が満足しただけで、まったく十分ではなかったということだ。
不意にオスカーの言葉を思い出していた。
『不安になった時にどうして差し上げるかを考えてください』
俺に出来ることは何だろうか………
そう考えながら窓の外を見ると、空が白み始めていた。
◇ ・ ◇ ・ ◇
「殿下、おはようございます」
あのまま寝られず寝台の上であれこれと考えを巡らせていると、オスカーが部屋にやってきた。いつの間にかすっかり夜が明け、窓の外の雪に朝日が反射して眩しいほど明るくなっていた。
「ご気分はいかがですか?」
「しっかり休ませてもらって随分楽になった。ありがとう」
「昨晩は大変でしたね」
「報告が行ったか…」
「もちろんです。あまりご無理なさらないでください」
オスカーの口調は静かで落ち着いているが、怒っているのだろうか……
大人しく寝台で休んでいるかと思ったら、出歩いて倒れたロザリーの介抱をしていただなんて、また何かのきっかけで俺も倒れるかもしれなかった…怒って当然だ。
「心配掛けてすまない。ただこの辺りを少しだけ歩いたら、すぐに戻るつもりだったんだが…」
「殿下、アルフレッドが伝えていると思いますが、今日も一日執務はお休みください」
「ああ、そうさせてもらう。全て任せて悪いが、よろしく頼む」
「かしこまりました」
「それで、明日は朝から執務に戻ればいいのか?」
「はい。体調にもよりますが、その予定でお願いします」
その後、オスカーが何かを考えるように少し黙り込んでから、再び話し始めた。
「ただ、ロザリー様との時間が必要でしたら調整はできます。あと数日はアルフレッドが補佐に参りますので、お茶を飲んでいただく程度の時間なら作れます」
「…丸二日も休むのに更に時間を取ってもいいのだろうか。それに何かの拍子にまたリリィのことを思い出したら………」
「もちろんまた倒れられたら困りますので、医官殿に相談をしてください。
私には、殿下がロザリー様との時間を通してあの時のことに向き合って乗り越えようとされているように思うのです。そのために必要な時間でしたら、ロザリー様がこの城にいらっしゃる間に時間を作っていただきたいと思っております」
「…ありがとう。俺も今回は自分自身に向き合ういい機会だと思っている。また倒れるようなことがないよう気をつけるから、力を貸してくれるだろうか」
「はい、殿下。私できることでしたら喜んでさせていただきます」
オスカーは、俺が前を向いて進んでいることが嬉しいと言い、穏やかな表情をした。
………が、そのすぐ後、思い出したようにわざとらしくため息を吐き、また諭すように俺に言った。
「それにしても殿下、病み上がりに一人で出歩かないでください」
「本当にすぐ戻るつもりだったんだ。それに、俺が『散歩に行きたいんだ』なんて夜中にお前の部屋に行ったらおかしいだろう」
「後で聞かされて心配するよりマシです。私は構いませんので、次からは遠慮なく誘ってください」
「…俺がイヤだ」
心配なのはわかるが、この過保護はどうにかならないだろうか。




