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氷と花の  作者: 千雪はな
第2章 傷を癒すために
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嗚咽

王子レイモンド視点のお話に戻ります。


※息苦しさを感じる表現があります。苦手な方はご注意ください。

どれだけ眠っただろうか……そういえばフレディに揶揄(からか)われて不貞腐れて寝たんだったか…


部屋も窓の外も真っ暗で真夜中であることがわかる。


フレディが予定を全てこなしてくれたおかげで、俺は丸一日しっかり休むことができた。念の為、明日も一日休むよう言われているが、全身のだるさもだいぶ取れ、気分もスッキリしている。


朝までまだまだ時間がありそうだが、もう充分すぎるくらい寝て、これ以上は寝られる気がしなかった。


俺は寝台から抜け出し部屋を出た。誰もいない廊下を少し歩いたら部屋に戻り、その後は大人しく休むつもりだった。


静かな廊下に自分の固い足音が響く。そこに遠くから急いだ足音がこちらに向かってきた。


早足で歩いてきた衛兵を俺は知っていた。ロザリーの部屋を護衛している兵の一人だ。


「どうかしたのか?」


「殿下!ロザリー様が部屋で倒れられて、自分は医官殿を呼びに参ります」


俺はその言葉を最後まで聞く前にロザリーの部屋へ駆け出していた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


ロザリーの部屋まで来ると、残っていた衛兵がすぐに扉を開けて俺を中に入れた。


前室では居室を出たすぐの所でロザリーが両手を床に付き(うずくま)っていた。


吸うばかりの呼吸で苦しそうにしていた。俺は対処法を知っている症状で少しホッとした。


驚かさないようにゆっくりと近づくと、横で心配そうに背中を(さす)りながら付き添っていた侍女が俺に気づいた。


「殿下…!」


「私が代ろう」


事情は後から聞くことにして、まずはロザリーを落ち着かせることが先だと思った。


ロザリーの前に静かに座り、怪我をしていない右肩をそっと支えてやり体を少し起こした。


「もう大丈夫だ」


ゆっくりと呼吸を促すように強張(こわば)った背中をそっと叩いてやる。


ロザリーは額を俺の肩に乗せ、右手は俺の上着の裾をぎゅっと掴み、小さく震えていた。


あの襲撃された日のことを夢に見たんだろう。どれほど怖かっただろうか…


彼女の不安が少しでも軽くなるようにと、俺を含めて支えてやりたいと側にいる者達がいることが伝ってほしいと願いながら、ゆっくり背中を叩き続けていた。


次第にロザリーの呼吸が背中を叩くリズムと揃い、ゆっくり穏やかになっていた。強張っていた体も少し力が抜けた気がする。


「ほら、大丈夫だろう」


するとパタパタと俺の膝の上に雫が降ってきた。


―――泣いているのか…?


ロザリーは声を漏らさぬように微かに肩を震わせて、涙だけが次から次へと(こぼ)れていた。


泣いてはいけないと育ってきたんだろう。その小さな肩にのしかかっているものの重さが想像できて、思わずその肩を抱き締め背中を摩った。


「泣いていいんだよ」


するとロザリーは堰を切ったように嗚咽を漏らして泣き始めた。次第に我慢していたものを解き放つように声を上げて泣いた。


気が済むまで泣いてほしいと床に座ったまま彼女の背中を摩り続けると、いつのまにか泣き疲れて眠ってしまった。小さくヒックヒックとしゃっくりをあげる彼女を抱き上げ、寝台へと運んだ。

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