静養
朝から部屋の外は人が行き交う気配がするのに、俺は寝台から出ることを許されず、落ち着かない気持ちで天井を眺めていた。
ロザリーの部屋で倒れたことはオスカーがうまく伏せてくれたようだが、体調不良で数日休むことは隠しようもなく城内に知れ渡った。
オスカーは俺が現場へ向かう必要があった所へ出掛るため、今日の予定されていた俺の執務はオスカーが手配した代理の者が行うこととなった。
二間隣りの執務室からは人が出入りする音が聞こえていた。
どうしても確認することがあれば、ここまで聞きにくると言っていたが、朝から何人もの出入りがあるのに、まだ一度も確認されることはなかった。もしかしたら俺がいなくても普段から回るんじゃないだろうか…
くだらないことを考えて拗ねていると、寝室のドアがノックされ、代理を務めるフレディが封筒を手に入ってきた。封筒には赤いバラの封蝋が見えた。
この男、フレディことアルフレッドはオスカーの弟で、普段は外交を担当する侯爵のもとで働いているが、事務作業に長けているので今回借りてきたようだ。俺の乳兄弟でもあり、気心も知れている。
「ユリセラの王女様からのお手紙です」
フレディはそう言うと、ペーパーナイフで開封して中の便箋を俺に差し出した。
「ありがとう。確認する」
寝台の上で体を起こして、フレディから便箋を受け取った。そこには上品ながら少し丸みを帯びた彼女らしく可愛らしい字が綺麗に並んでいた。
手紙には、俺の体調を心配する言葉が丁寧に綴られていた。彼女の滞在で俺に負担がかかっているなら申し訳ないとも。
そして最後に、迎えが来たら帰国すると書かれていた。
昨日はロザリーにもう少しだけここでの滞在を伸ばして、しっかり静養してから帰国することを勧めたかった。それなのに、目の前で倒れてしまったから彼女が責任を感じてしまっている。俺自身の問題なのに…
ただ、彼女が帰国すると言うのであれば、俺が何か口を出すことではないだろう。
「フレディ、シセイレンへの砦の使者の件は聞いているだろうか」
シセイレンの砦は、我が国のガララの砦と国境を挟んでユリセラ北部に位置するユリセラ王国の国境を守る砦の一つだ。この砦で準備を進めるロザリーの迎えの一団へこちらの使者を送り、今後の予定を調整するのだ。
「はい、この後出発すると聞いております」
「予定通り進めてくれ」
「かしこまりました」
そう言って部屋を出て行こうとするフレディを呼び止めた。
「フレディ、写本の手配を頼めるだろうか」
「写本、ですか?」
「ああ、ロザリー殿がハーブティーに関する本に興味を持たれていたので写本を約束したんだ。侍女にどの本か確認して手配をお願いできないだろうか。他にもあれば、2、3冊位なら用意してほしい」
「はい、かしこまりました」
「執務の方は問題なく進んでいるのか?」
「ええ、今のところ大きな問題はございません。何かありましたら、殿下に伺いに参りますのでそれまではゆっくり休んでください」
「そう言って朝から一度も来なかったじゃないか」
「あ、もしかして寂しかったですか?もっと頻繁に顔出しましょうか?」
「なんだそれは!用もなく来なくていい!」
フレディは「ははは、失礼しました」と楽しそうに笑って部屋を出ていった。絶対に失礼しただなんて思っていないだろう。
乱暴にブランケットを被り、寝直すことにした。早く回復した方がいい。




