ティータイム
ロザリーに誘われ部屋に入ると昨晩確認した時とは、また印象が変わっていた。
昨日は家具がただ置かれているだけだったが、そこにクリーム色や生成りのテーブルクロスやラグが敷かれ、部屋のあちこちにはピンクや黄色の淡い色の花が飾られていた。その空間は温かく落ち着いた中に、可愛らしさも感じられた。
明るい雰囲気にそのまま包まれていたかったが、今朝届いたユリセラからの知らせを先に伝えることにした。
「ロザリー殿」
少し緊張した俺の声に、ロザリーもハッと顔を上げて姿勢を正した。
「はい」
「部屋を移っていただいたばかりで申し訳ないのだが、貴国から、準備が出来次第、貴女を迎えに来ると連絡があった」
ロザリーの顔から表情が消えた。
「………早ければ明日帰国ということですか?」
「いや、そこまで急ではないが、今朝届いた連絡では貴国の隊はシセイレンの砦で準備を整え、三日後に出発する予定とのことだ。その日の内にこの城に到着するだろうから、早ければその翌日に帰国することになる」
「あと四日……」
そう言ってロザリーは黙り込んでしまった。
「帰国される時には国境まではできる限りの護衛をつけよう。少しでも安心してもらえれば良いのだが…」
「ありがとうございます。ご心配をお掛けして申し訳ありません」
「いや、謝らないでくれ」
急な帰国の知らせに、ロザリーが何か考え込んでいるようだった。
「何か心配事でも?」
「このお部屋、こんなに準備してくださったのに、すぐに帰国しなければならないと思ったら申し訳なくて…」
「やはり貴女は優しいな。数日だけでもここが貴女の心が少しでも休まるのであれば、それだけで十分だ」
「ありがとうございます」
「もし、貴女がもう少しここで静養してから帰国を希望されるのであれば、こちらからそのように伝えよう。
ここでの滞在延長が叶うかはわからないが、我々は、貴女が望むなら好きなだけここで過ごしてもらいたいと思っている」
「えっ……」
思ってもみなかった申し出だったようで、ロザリーは驚いた顔をしていた。
「明日、貴国の迎えの隊の入国許可を伝えにシセイレンの砦へ遣いを出す。昼前に出発させるから、一晩考えてくれるだろうか」
「はい…かしこまりました」
ロザリーは少し戸惑ったように微笑んだ。
「では、用意してもらったお茶が冷めないうちに頂いてもいいだろうか」
「はい、もちろん」
ロザリーが気持ちを切り替えるように明るく返事をしてくれた。その笑顔に少しホッとした。
侍女がティーセットをテーブルへ運んできた。どうやらロザリーが淹れてくれるらしい。
「私、ハーブティーが好きで、自分でも淹れたくて少し勉強し始めたところなんです。今日もいくつか用意していただいたハーブからソフィに手伝ってもらって選んでみたのですが…」
そう楽しそうに話しながら、少し危なっかしい手つきで3つのカップにお茶を注いでいく。
まずは俺の前に「レイ様、どうぞ」と、そしてテーブルの少し端にもうひとつ、揃いのソーサーと共にカップが置かれた。
「オスカー様もどうぞ」
和かにお茶を勧め、ロザリーも自分の席について一口飲んだ。
「ん、美味しい!……と思います」
思わず出た自画自賛に少し照れた様子で俺とオスカーを見てはにかんだ。
「ありがとうございます。頂きます」
とオスカーも俺の傍に立ち、一口飲んだ。
「とても美味しいですね。殿下もどうぞ」
そう言うとオスカーは侍女に促され、小さめのテーブルに用意されたアップルパイを頬張りだした。
澄ました顔をしているが、アップルパイが大好物なのを知っている。最近、特に忙しくオスカーには動いてもらっているから、ひとときの休息になるだろうか。
俺もロザリーが淹れてくれたお茶を一口飲んだ。
ミントの爽やかな香りがスッと疲れを癒してくれるようだった。




