王女の部屋
王女の部屋の準備ができたとの知らせを受け、その日の予定が全て片付いた後、部屋の様子を見に行くことにした。
既に日が落ちて暗くなった廊下をランプ片手に懐かしい部屋へ向かっていた。
城の南東の一角、庭に面した日当たりの良い部屋が俺が子供の頃に勉強をする部屋だった。
木製の重たい大きな扉を開けると天窓付きの前室があり、右手に居室、奥の突き当たりに書庫がある。
居室の扉は開いていた。灯りが漏れていたので中ではまだ作業をしているのかと思ったが、部屋に入ると誰もいなかった。
寒さに思わず肩をすくめながら、周りを見回した。王女を迎えるための準備がすっかり整っているようだった。
テーブルやソファが置かれ、昼間はここで過ごすことになるだろう。その続きの間は寝室となっていた。
ふと部屋の配色が、今日会ったロザリーが着ていたものと同じなことに気づき、その柔らかくて愛らしい笑顔を思い出していた。
俺の知るこの部屋は白い壁に深い緑色のカーテンが掛かっていたが、壁はクリーム色に塗り替えられ、カーテンはえんじ色と暖かな雰囲気に変わっていた。
「なかなか良いじゃないか」
そう呟くと、煙突の付いた大きなストーブの後ろから老人がひょっこりと立ち上がった。
「おや、殿下。おかえりなさいませ」
「驚かさないでくれ、ベン。久しぶりだな」
ベンは俺が生まれる前から城にいて、いろいろな設備の修繕などをしていた。俺が城を離れて騎士団に所属してから会うこともなく、引退しているかと思ったが、まだ現役だとは驚いた。
「ストーブの修理に時間が掛かって申し訳ありませんでした。ようやく部品が届いたもんで。今から火を入れてみるところです」
そう言って焚べられた薪に火をつけるとパチパチという音が静かな部屋に響き、ゆっくりと部屋が暖まっていった。
「ベン、この短期間でここまで整えるのは大変だったであろう―――それなのに申し訳ないのだが、ユリセラの王女はあと数日で帰国する予定になったんだ…」
「殿下、そのようなことで謝らんでください。明日には王女様はこの部屋に移ってくださるんですよね」
「ああ」
「それでは予定通りではないですか。元々、部屋の準備が整ってから帰国されるまでこの部屋で過ごされるって聞いとります。数日だけでもわざわざ部屋を移ってくださるなら、ここで仕事した皆、準備をした甲斐があったってもんですよ」
「いや、しかし…」
この部屋の改装をすることに決まったのは、ストーブの部品の取り寄せに時間が掛かることがわかってからだ。それからたった三日間でここまで仕上げてくれたのに、数日しか使わないなんて…
「そもそも他所の国の姫さんがそんなに長いこと、ここにいらっしゃるとは誰も最初から思っとりませんよ」
「………」
「殿下、この部屋の仕上がりはいかがですか」
「ああ、素晴らしい出来だ。気に入った」
ベンは深く皺が刻まれた顔を綻ばせて言った。
「そのお言葉で充分でございます」




