ユリセラからの便り
時は少し戻り、ガララの砦から王城へ移った日―王子と王女が対峙した日の夜のこと―――
「はぁ………疲れた」
俺は自室に入るなり大きめのソファの上に倒れ込み、クッションに顔を埋めた。
衛兵団が少女の部屋へ押しかけたことについては、騒ぎを聞いて駆けつけたオスカーに聞き取りと事後処理を任せた。
「はぁ…」
もう一度ため息を吐いて仰向けへと寝返りをうつと、両手を天井へとかざしてみた。今更緊張してきたのか、小刻みに震えている。
王女の手から剣を払った右手の甲が少し赤くなっていた。俺の手はほとんど剣の柄に当たらなかった。彼女の手は大丈夫だろうか………
ふと右腕に僅かに痛みを感じて目をやると、袖口が切れて血が滲んでいるのに気づいた。袖口を捲ると、手首と肘の間に10センチ程の一筋の傷があった。傷は極浅く、血はほとんど止まっていた。
このまま放っておいたら乾いて治るだろう―――とはいかないんだろうな。面倒臭いことになるな…と三つ目のため息を吐いた。
◇ ・ ◇ ・ ◇
ああ…そろそろ起き上がらなければ、と思うのだが体が鉛のように重い。そのままぼんやり天井を眺めながらソファに寝転がっていると、オスカーが部屋に戻ってきた。
「殿下っ!大丈夫ですか、どこかお怪我でも⁈」
オスカーが慌てて駆け寄ってきた。
「落ち着け、大丈夫だ。ただ疲れただけだ」
「お怪我は?どこも怪我されていませんか?」
はぁ、放っておいてほしい。
「…ちょっとした擦り傷だ」
「見せてください」
「少し切れただけだ」
「見せてください」
「イヤだ」
「殿下!」
渋々右腕を出しオスカーに見せる。
「…もう血は止まっている。放っておけば治る」
「ダメです。医官を呼びます」
はぁ、やっぱり面倒臭い。言わなきゃよかった…
まぁ、後で見つかった時の「王子として御身を大切にしなければならないのはなんちゃらかんちゃら…」と長い長い説教の方が面倒臭いのだが。もちろん言わんとする事は理解はしている。
「殿下、ユリセラからの便りが届いております」
「ああ、確認する」
ユリセラ王国には、彼女を保護した翌日にこちらから使者を送り、王女と思われる少女を保護し、王城で治療することを伝えていた。
ソファに座り直し、オスカーから手紙を受け取り広げた。
「あちらは何と?」
「…すぐにでも王女を迎えに行くと言っている。そのための入国の許可が欲しいとのことだ」
「こちらへの到着はいつ頃に?」
「一週間後くらいになるようだ」
「それまでに王女様の体調が落ち着いているといいのですが」
「そうだな……でも彼方としては、多少具合が悪くても早く連れ帰りたいんだろうな。
いつ到着してもいいように、入国許可の書類を用意してくれ。それと陛下への報告がすぐにできるか確認も」
「かしこまりました。すぐに準備して参ります」
「ああ、頼んだ」
オスカーは部屋を出て行こうとしたところでクルッと振り返り念押しした。
「医官を寄越しますから、きちんと治療を受けてくださいね」
「………」
ああ、面倒臭い…
◇ ・ ◇ ・ ◇
「では明日、包帯を取り替えに参ります」
そう言って医官が部屋を出くのと入れ替わりに、オスカーが部屋に入ってきた。
「書類がご用意できました。陛下もすぐにお会いいただけるそうです」
「では行こうか」
廊下を歩きながら俺は自分の右腕を見た。手の甲も少し擦りむいているからと腕と一緒に包帯を巻かれた…大袈裟にも程がある。まるで大怪我じゃないか。
陛下との面会の間に着くまでに取ってやろうか、と包帯を睨んでいたらオスカーにバレた。
「取ったら巻き直しますよ」




