王子の葛藤(前編)
あれから三日が経っていた。
騒動の後、少女は夕方には意識を取り戻し、侍女からガララの砦近くで一人で倒れていたところを我々が保護したことや、この城へは治療のために来たことを伝えられ、落ち着いて過ごしていると聞いた。
すぐに肩の傷の治療も始められたのだが、今回の騒動で砦で縫った傷跡が開いてしまったとの報告もあった。彼女が持っていた剣を払うときに、俺が思い切り叩いたからだろう…
「今朝の彼女の様子は聞いているか?」
「殿下、そう何度も報告をさせるのでしたら、直接お会いになってはいかがですか?」
オスカーは机の上に山積みになった書類を整理しながら、少し呆れたように言った。
「いや、俺の顔なんか見たくないだろう…」
「そうでしょうか」
「そうだろう。俺の顔を見たってこの間のこととか、襲われた時とか、嫌なことしか思い出さないんじゃないか?」
「そんな不安にならなくてもいいと思いますけどね…」
「俺の不安はどっちでもいい。彼女にこれ以上の不安は一つでも与えたくないんだ」
「一つも、だなんて極端なこと無理ですね」
「な…」
「不安になった時にどうして差し上げるかを考えてください」
涼しい顔をして正しいことを言うオスカーに「わかっている」と拗ねたようにしか返せない自分が情けなくなった。
「………俺が会いにいってもいいだろうか」
「伺って参りましょうか?」
「ああ、頼む」
オスカーは満足そうに「かしこまりました」と微笑むと、確認が済んだ書類を手に部屋を出ていった。
◇ ・ ◇ ・ ◇
その日の昼過ぎ、早速少女と面会する時間を持つことになった。
まだ微熱が続いているので、広間ではなく少女の部屋の次の間で許してほしいと返事が来た。
「熱があるのに大丈夫だろうか、なんて思っていませんか?」
黙り込んだ俺の気持ちを見透かしてオスカーが聞いてきた。
「大丈夫なのか?」
「あちらは殿下にお会いできる機会ができて嬉しそうにされていましたよ。普段は何でも即断されるのに、この事となると途端に慎重になりますね」
「すまない…」
「いえ、謝られることは何もございません。少しずつ前へ進まれているようですから、よろしいのでは」
オスカーは「殿下も困ったものですね〜」などと大きな独り言を吐きながら書棚に必要な資料を取りに行った。
どうも俺がうじうじ悩んでいるのを見て愉しんでいる節があるが、根底には俺のことを心配して見守り、俺自身が決断を下すのを待ってくれていることはわかった。言葉にして礼など言わないが。
せっかくの面会の機会なのだから、何を伝えるべきかを考えることにした。




