誤解(後編)
俺と少女は間合いを取ったまま、お互いに視線を逸らすことなく対峙を続けていた。
視界の端には兵の剣が少女に向けられ鈍く光っていた。
「剣を納めるんだ」
俺は視線をずらすことなくもう一度低い声で兵に命令した。
少し間を置いた後、ゆっくりと剣が鞘に納められる音がすると、少女が一瞬悲しそうな表情を見せ、チラッと視線を兵の方へ向けた。
その瞬間、俺は一気に間を詰めた。
少女もハッとして剣を持ち替え切先を自分の胸元へ向けようとしたが、それよりも早く俺は少女の手ごと剣の柄を思い切り払い、走り込んだ勢いのまま彼女を抱きしめた。
弾かれた剣は大きな音を立てて床に落ち、壁際まで滑っていった。
二人して力無く床に座り込み、腕の中の少女の震える肩をさすってやる。
今になって恐怖が押し寄せてきたかのように、少女の息が荒くなりやがてうまく呼吸ができなくなっていった。俺の不用意な一言で彼女に息もできない程の恐怖を与えていたのだ。
「すまない…本当にすまなかった…」
謝罪の言葉しか出てこなかった。ただ彼女の背中をゆっくりと叩き呼吸が整うのを待った。
やがて少し落ち着くと少女は消え入りそうな声で、
「…殺してください……ユリセラの枷になるのであれば…死なせて…」
そう言って少女は意識を失った。
◇ ・ ◇ ・ ◇
少女を寝台へ寝かせると、衛兵団の一人が遠慮がちに近づいてきた。
「殿下、どうされますか?」
「どう、とは?」
「殿下に刃を向けたのですから、何も咎めなしという訳には…」
「貴殿は彼女が本気で俺に危害を加えるつもりだったと言うのだな」
「はい、そのように見えました」
「そうか………」
「違うのですか?」
「彼女は俺に刃を向けることで、貴殿達に自分を斬らせようとしたのだ」
「え…、何故…」
「彼女は何者かに襲われて雪の中に倒れていた。ずっと意識が戻っていなかったから、今ここでの状況がわからない中、ここには捕えられて連れてこられたと思ったんだろう」
「………」
「人質となるくらいなら自ら斬られようと。自国の重荷にならないよう王女として振る舞ったんだろう…」
「そんな…」
「だから彼女は俺に危害を加えるつもりは最初から一切なかった。問うべき罪はあるだろうか?」
「………」
兵からの答えを期待したのではなかった。責められるとするなら、彼女に不安と恐怖を与えた俺自身だろう。




