誤解(前編)
城内は多くの兵達が足早に行き来し、平時とは少し違っていた。
オスカーの報告によると、東のシビルドの砦で国境を接するレキストリア帝国と小競り合いがあり、その情報収集と応援部隊の編成で城内が慌しくなっているとのことだった。
「俺は応援部隊と共にシビルドへ向かう必要があるのか」
「いえ、砦は落ち着いていて、念の為に部隊を向かわせて人員増強するそうです」
「なるほど。他には?」
「数名の捕虜をこの王城へ連行するという話もあるのですが、こちらは情報が錯綜していて、これから仔細を確認に行って参ります」
「わかった。後で教えてくれ」
俺はオスカーと分かれて琥珀の間へ向かい、陛下へ帰城の報告をした。
報告はいつも通りであったが、ユリセラの王女について陛下からは、王女が心身共に回復するために期間を設けずにこの城の滞在を許可することと、第一王子の客人として王女が帰国するまでの安全を俺が責任を持って保証すること、との言葉をいただいた。
◇ ・ ◇ ・ ◇
帰城報告を終え、俺は少女の部屋へ向かっていた。
兵達の往来が減り、静かな来客用の部屋が並ぶ廊下へ差し掛かると兵の高圧的な声が聞こえて嫌な予感がした。
「___スパイかもしれないじゃないか!」
「いえ、そんなはずはございません。勝手に入られては困ります!」
その声がする部屋の前まで来ると、開け放たれた扉の先に兵達とその向こうの寝台の上で怯えた様子で座る少女が見えた。
「ここで何をしている!」
俺は急いで部屋に入ると兵達に声を荒げた。
一人は先程オスカーとやって来ていた衛兵で、そのまま少女の部屋の警護に就いた者だろう。残り3名は、この城とその周辺を守る兵団の章をつけている。兵達は皆こちらに向き直り、衛兵団の者のうちの一人が答えた。
「砦で捕えた女が城に連れてこられたとの話があったので、この者だろうと今から尋問をするところです」
「それは東の砦の話だろう!彼女は私の客人だ!」
「そんなはずは…ではこの者の身元は⁈スパイかもしれません!」
「馬鹿者っ!この方はユリセラ王国の王女である!」
「なっ!」
驚く兵達の後ろで、少女は驚くというよりも、差し迫る恐怖を感じているかのようだった。
「しかし、殿下!」
その言葉が部屋に響いた瞬間、少女の瞳は俺を捕らえ、何かを決意した強い眼差しに背筋が寒くなった。
―――しまった!彼女はここがどこかも、我々が何者であるかも知らない。それなのに、俺たちは彼女をユリセラの王女であると知っている…
次に少女が取るであろう行動が俺の予想通りなら最悪だ。
「全員、動くなっ!!」
そう叫ぶと、俺は兵達の横を抜け、寝台の反対側へ回り込んだ。
と同時に、少女は一番近くにいた兵の腰から短剣を抜き、俺と同じ側に降りて剣を構えた。
俺に向けられた切先は小さく震えていたが、しっかりと護身の訓練を受けてきたのだろう、2、3歩間合いをとって構える姿に隙はなく、俺と少女は無言で対峙した。
不意に兵の方から剣を抜く音が聞こえ、少女が僅かに身構えた。
「動くなと言っている!」
俺は少女から目を離さぬまま左手を突き出し兵を静止した。
「しかし!」
「剣を仕舞え、命令だ!!」




