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氷と花の  作者: 千雪はな
最終章 オルトランド王国へ
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幸せへの誓い

ロザリーが息を呑んで、部屋の入り口で足を止めた。


婚約の儀が執り行われる部屋の前室の真ん中には、お揃いのマントが掛けられたトルソーが並んでいた。


一着は俺の、もう一着は真新しいひとまわり小さいロザリーのものだ。


ロザリーのドレスと同じ濃紺のマントには、銀糸を使った雪の結晶の刺繍が施されている。高い位置にある窓から差し込む陽の光を受けて、雪の結晶の刺繍がキラキラと優しく輝いていた。


「綺麗……」


ため息が漏れるように、ようやくロザリーが言葉を発した。俺にとっては見慣れたマントだが、こんなにも感激してくれると特別なものに見えてくる。


俺は自分のマントを羽織るとロザリーのを手にした。


「ロザリー、おいで」


緊張した面持ちで俺の前まで来たロザリーにマントを着せてやる。俺とお揃いのマントを着てくれる心から愛する人に出会えた幸せを改めて感じていた。


マントを見ているロザリーのあごに手を添え、彼女の視線をこちらに向けると、そっと口付けた。


唇が離れ、再び視線が合うとロザリーが微笑んでいた。


「さあ行こうか、ロザリー」


「はい、レイモンド様」


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


婚約の儀は、城の中でも最も古くからある石造りの間で行われた。ステンドグラスから差し込む光の下、国王から俺とロザリーは婚約を認める言葉を頂き、書類にサインをした。


ごく短い儀式だが、これでロザリーは正式にオルトランド王国に迎えられた。王室の一員となるのは婚姻後だが、これからは俺の婚約者として行動を共にできる。


長く長く待ち望んだ願いが、ようやく叶った思いがした。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


王族への挨拶も済ませ、一旦控えの間に戻った。


「はぁ、緊張しました」


ロザリーのリラックスした声を久しぶりに聞いた気がする。俺も緊張していたのだろう。彼女の見慣れた笑顔を見たら、ふっと肩の力が抜けた。


「ああ、このまま貴女とゆっくり過ごせたらいいのに…」


この後も当然のように予定が詰まっている。どうしようもないことを言ってロザリーを抱き寄せると、彼女は腕の中で俺を見上げて困ったように笑い、俺の背中を(なだ)めるようにトントンと叩いた。


「今日は諦めてくださいませ。明日も明後日も私はここにいますから」


優しく笑うロザリーに口付けて、もう一度抱きしめた。明日はふたりでゆっくり過ごす時間が持てるだろうか……?


そう考えていると、扉がノックされた。


「殿下、ロザリー様、皆様お揃いになりました」


「ああ、わかった。ロザリー、皆に挨拶をしようか」


「はい、レイ様」


そう笑顔で俺の右腕に手を添えるロザリーと共に城の正面の広いバルコニーへと出た。既に待っていた王族達の真ん中へと進み出ると、集まった多くの民衆が歓声を上げた。


その光景を見て嬉しそうにするロザリーと微笑み合うと、揃って正面を向き、晴れやかな気持ちで皆に手を振った。



「ロザリー、貴女を生涯を懸けて幸せにすると誓うよ」


優しく微笑むロザリーを、そしてもう一度正面の民衆を見て続けた。


「それと同時に、この国の民も幸せにする責務を感じている」


「私も少しは貴方様のお力になれるでしょうか」


「ああ、貴女は誰よりも心強い味方だ。愛してるよ、ロザリー」


彼女を抱き寄せると、一段と大きくなった祝福の歓声の中、潤んだエメラルドグリーンの瞳を見つめた。その瞳が閉じられるのに合わせるように、俺はゆっくりと口付けた。

本編最終話、いかがでしたでしょうか。無事にロザリーとレイモンドのハッピーエンドを書くことができてほっとしています。明日、エピローグを投稿できればと思っています。


いよいよ完結を目前にして、少し寂しくもなってきました。

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