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7話 かわいそうな人。

 レイチェルは大きな瞳をさらに大きくさせる。



「契約?! あなたの口からそんな言葉が出るなんて!!」



 カップに残ったコーヒーを一気に飲み干し、レイチェルは深呼吸をした。



「ローザさん。貴族は事業は下々の者に任せたままって聞いてます。金勘定は恥ずかしいことなのでしょ」


「そうね。大部分の貴族はそうでしょうね。だけど、エクスター(わがや)は違うのよ。商売をすることに罪悪感などないわ。」



 数百年前ならいざ知らず。

 時代は変わってきているのだ。


 広大な領地での農業だけで食べていける幸せな時代はすでに終わり、領地を持っているだけでは運営も使用人も養うことができない世の中になろうとしている。


 現金収入は何よりも重要なのだ。



「レイチェルさん。それで、どうするの?」



 レイチェルは髪をかき上げた。



「……いいでしょう。条件を言ってください」



 さすが。

 才女で知られているだけある。

 物分かりはいいらしい。



(だけどこれ以上は……)



 二人だけで話を進めるのは危険だ。

 後でいちゃもんをつけられては面倒だ。


 私は執事に呼ばせた事務官たちが到着するのを待ち、彼らが席に付いたのを確認して思わせぶりに口を開いた。



「条件って言ってもね、大したことではないわ」と人差し指を立てる。


「一つ目はあなたのプロデュースする香水の売上の5パーセントを報酬として支払ってもらいたいの」


「5パーセント?!」



 レイチェルは事務官の方を向き、



「私が求めているのは助言だけですよ??? ローザさんの言う金額は多すぎじゃないですか?!」


「いいえ。マーティン様。むしろ控えめだと思われますが」



 ローザ・ヴァーノンの名は広く知られており上流階級での広告効果は絶大。

 お嬢様の名を商品に冠するのであるならば、33パーセントが妥当であるが、今回のようにアドバイスのみというのであれば10パーセントが相場だと、事務官はキッパリと告げた。


 優秀な人というのは、すぐに雇い主の意図を理解してくれるものだ。

 指示しなくても行われる援護射撃が心地よい。



 レイチェルはしばらく考え込み、「確かにそうですね。事務員さんが正しいです。わかりました」と香水開発の資料を鞄に片付け立ち上がった。



「契約書を私の弁護士のところに送ってください。サインは契約書を確認してからにします。もういいですよね? 私、これからアーチとデートするんです」


「レイチェルさん。お待ちなさい。まだ終わっていないわ」



 私はレイチェルに再び交渉の席につくように引き止めた。



「香水だけではなく、ライフスタイルでも助言が欲しいのよね。そちらは別件ではなくて?」


「はぁ、守銭奴か」とレイチェルは小さく呟き渋々腰をかける。


「……おっしゃる通り。別ですね。それで二つ目の条件は何ですか?」


「簡単よ。殿下……いいえ、アーチボルトとは必ず結婚することよ」


「え」



 レイチェルにとって私の提案は意外だったようだ。

 最初が金勘定のことだったので、次も同じだと考えたのだろう。



(正直、お金は重要じゃない)



 こちらの方が本命だ。



「レイチェルさんは婚約者のいる相手を奪い取ったんですもの。幸せになってもらわないと捨てられた私が困るの。そもそもあなたの考えでは恋の行き着く先は結婚なのでしょう?」



 おとぎ話では、王子様とお姫様は結婚してハッピーエンドだ。

 庶民のお姫様にはぜひ王子様のお妃様になってもらわねば、()()()()()()()は完成しない。

 末長く幸せに暮らしてもらってこそ、こちらも際立つというものだ。



「訳がわからない。あなたに言われなくてもアーチとは結婚はしますよ。当然ですよ。私たち愛し合っているんですもの」


「そうよね。確認したかったの。安心したわ」



(これで心置きなく制裁できる)



 別れた相手が愛していた女性に捨てられる。

 しかも全て賭けて選んだのに手ひどく無情に……。

 そうやって惨めに落ちぶれていくのだろう。


 うん。悪くない。

 個人的には気持ちが晴れる。


 だが。



(そんな些事どうでもいいわ)


 私の気持ちなど関係ない。

 利用価値がなくなるまではレイチェルにはアーチボルトを捕まえていてもらわないと困るのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「まさかローザさん。私とアーチが信じられないのですか? あぁ、だからこんなこと契約書に盛り込もうとしてるのね」



(裏切り者を信じろと?)



 信じられる訳がないじゃないか。

 呆れる。



「レイチェルさんと殿下は婚姻という契約がありながら愛のために婚約破棄をするのよ。そんな人たちを、どうやって信じろというの」


「あーあ。やっぱりローザさんはかわいそうな人だわ」



(私がかわいそう??)



「あなたには心から信頼できる人がいないでしょ」

「失礼ね。信頼している人ならいるわ」



 エクセター公爵家の家族、使用人(使用人は裏切りの代名詞だが、我が家に仕えている人たちは信用に値する。もちろん十分な報酬は与えているからだが)


 そして数は多くないけれど気のおけない友人たちもいる。



「いいえ、私が言っているのはそう言うことではないの」



 レイチェルは腕組みをして、意地悪気に片方の口角を歪ませた。



「あなたは人を愛したことがない、他人から愛されたことがないのよ。残念な人だってことよ」

読んでいただきありがとうございます。

7話です!


ザマァも少なく、皆が幸せになる話を書いてみたくて書いていますが、

ローザの幸せが少なくない?!と悩みはじめました。

今までの主人公たちに比べて不幸度は低いんですけどねw


ブックマーク・評価・いいね!ありがとうございます。

執筆の励みにさせていただいています。


次回の更新も週末あたりを予定しています。

また読みにきてくださいね。


追伸!

WEBTOON版『婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。』もそろそろ終幕です。

それに合わせて外伝なんかを書くのもいいかなと考えています。

読んでみたいエピソードなどありましたら、教えていただけないでしょうか?

(感想欄や活動報告メッセージ、Twitterなんかに書き込んでいただければ嬉しいです!)

よろしくお願いします!

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