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6話 努力すれば報われる……そんなことはあり得ない。

 レイチェルはぱらぱらと書類をめくり指で弾いた。



「ついでにライブデンでうまくやっていけるようにコツも教えてください」


「恋人の婚約者の私にアドバイスしてほしいの??」



 なんと図々しい……。



 私はレイチェルの姿を改めて観察する。


 着ているのはオフホワイトのデイドレス。これは有名メゾンのものだ。今年の新作カタログに載っていたのを覚えている。


 ドレスの色味も絶妙。

 レイチェルの肌の色と黒髪によく似合っている。


 アクセサリーは小ぶりな一粒ダイヤのイヤリングとブレスレット。物足りなさも感じるが、昼間に使うにはちょうどいい。

 上流階級のマナーに沿った素晴らしいものだ。



(レイチェルは自分を演出することが上手いのね)



 アカデミーでアーチボルトと一緒のところを見かけた時も感じていた。

 レイチェルはどうすれば自分を魅力的に見せることが出来るか理解している。



(私に教えを請いたいっていうのは……)



 本心でもあると思うが、もう一つの願望もあるのだろう。



 ーーーー元婚約者へのマウンティング。



(あれもこれもって……。なんて欲張りな人なのかしら)



 謙遜しすぎも良くないが、強欲すぎるのもどうかと思うが。



「レイチェルさん。あなたはすでに十分わかっているように思えるわ。私のアドバイスなんて必要ないでしょう」


「そんなことありません。私、ライブデンのこと本当の意味ではわかっていませんもの。だって……」



 言葉を止めレイチェルはメイドを呼びつける。

 紅茶が美味しくないとひとしきり文句を言うと、代わりにコーヒーを持ってくるようにぞんざいに命じた。



「貴族って時代遅れの存在なんですもの。ええ、そうよ。私、彼らがわからないのです。私は生まれた時から“市民“です。同じ人間を下に見ることなんてできませんし、何よりも紅茶よりもコーヒーの方が好きなんですよ」



 レイチェルはテーブルに肘をつき、両手の指を合わせた。



(貴族が理解できない?)



 軽く混乱する。

 それでは今のメイドに対する振る舞いはなんだ。

 人を使うことに慣れているではないか。



「ローザさんもご存知の通り、私の国には王族も貴族もいません。もちろん貴族のような生活をしている富豪もいますがごく一部です。国を離れるまでは彼らは他国の王侯貴族と変わらないと思っていました」



 大豪邸と大勢の使用人たち。夜な夜な開かれる贅沢なパーティ……。


 けれど、それは紛い物に過ぎなかった。

 ライブデンに来て代々続く貴族に接しレイチェルは実感したのだという。

 自分は本物を知らないのだと。



商売(ビジネス)もそうですけど、アーチと人生を歩んでいくためにもローザさんの助けが絶対に必要なんです。手伝ってくれませんか」


「あのね、レイチェルさん。あなたが望んでいるものは私が教えて理解できるものではないわ。アイデンティティに関わってくることなのよ。異邦人のあなたは少しずつでも自分で学んでいくしかない。それにあなたには一生かけても、理解できないと思うわよ」


「そんなことありません! 私は優秀なんです。努力すれば理解できます。私はそうやって今まで生きてきたんですよ。強く願えばどんなことでもクリアできるでしょ!」



 怒りで頬を紅潮させレイチェルが勢いよく立ち上がった。



「レイチェルさん??」



(努力すれば願いが叶うとか、本気で信じているの???)



 レイチェルの国では女子も男子と変わらない教育を受けているのだと聞いたことがある。

 植民地だった過去との決別を表明するためには新体制の国家を作り上げるのが悲願だった。

 そのためには国民の教育が重要だ。


 レイチェルのように『努力が報われる』と心から信じることができるのは、ある意味、教育の賜物なのだろう。

 女子教育の成功例だ。

 教育には熱心ではない我が国とは大違いだ。



(眩暈がするほどに素晴らしく崇高な思想ね)



 だが、理想と現実は乖離しているものだ。

 努力だけではどうにもならないことも多々あるものだ。

 それはライブデンだろうが、レイチェルの祖国だろうが変わらない。



「レイチェルさん。落ち着きなさい。座って。……あなたって純粋なのね。殿下がお好きになるはずだわ」


「嫌味なら要りません。ローザさん。時間は有限なんです。出来るのか、できないのか。それだけを答えてもらえますか?」


「……」



 公爵家の事業を取り潰した当人に恩も義理もないが……。



(他人に寛容であることは大事よね)



「いいでしょう。お受けしましょう。ただし、条件があるわ」


「条件?!」



 レイチェルは信じられないと不快感を露わにする。

 自分の望みは他人が歓喜して受け入れて当然だと信じているのだろうか。


 私は顎に手を当て、あえて疑わない純情さを装って首を傾げた。



「なぜ? あなたは私にコンサルティングを依頼したのでしょう? 仕事であるならば、契約が必要でしょうに」


「契約??」


「あら。自由と平等の国であるあなたの祖国では、労働を請け負う時には契約を交わすのでしょう? それこそ雇い主とメイドの関係ですらと聞いたわ」



 私は執事に事務官と書記官を連れてくるように指示し、まっすぐにレイチェルを見据える。



「時間は有限、だったかしら。答えていただける? レイチェルさん。私と契約を交わすのかどうか」

読んでいただきありがとうございます!

吉井です。


うたたねしていたら更新時刻過ぎていました汗


ブクマ、評価嬉しいです。

がんばれます。


次回も土日辺りに更新予定です。

ではまたお会いしましょう。


たまに活動報告も書いています。

webtoon裏話などもありますので、ぜひそちらも!

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