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12話 王族の品位とは?

 ダルトンは満足気に微笑んだ。

 どうやら私は試験に合格したようだ。

 この男が仕えるに足りる人物と評されたのだろう。


 ただ私は商品か何かかしらと不快に思わないでもない。

 まさか身分も下で素性のわからない男に品定めされることになるなんて……。


 一応、私は公爵家の娘であり、王家の婚約者でもあるのだが。



(まぁ有能な人材は宝よ。この程度の無礼、どうってことはないわ)



 そもそもダルトンは名前だけはライブデン風だが、姿も中身も異国人なのだ。

 常識は通じないものだと考えた方が気が楽だ。



「では」



 ダルトンは私の机の上の書類をさらう。



「こちらの書類は私が処理しておきます。フィールズ伯爵の件はお任せください。近いうちに必ず良いご報告をいたしましょう」


 それよりもローザお嬢様には至急対応しなければならないことがあるようですよと胸元から一通の手紙を取り出し執務机に置いた。


 極上の舶来の紙を使った封書だ。

 かすかに乳香の香りがする。



(なんと趣味がいいこと)



 ここまで丁寧に完璧なまでに儀礼にそった手紙など久しく見ていない。

 私は手紙を手に取った。


 表には艶やかな黒インクで書かれた『ライブデン王国王子アーチボルトの婚約者にしてエクセター公爵令嬢ローザ・ヴァーノン殿』の1行。

 優雅な筆つかいの文字だ。



(この筆跡、見覚えがあるわ)



 私は封書を裏返す。

 記名はない。


 次に封蝋シールに押された印璽を確認する。

 バラに囲まれた控えめな王冠……。



 ーーーー十分だ。



(……王妃殿下から、ね)



 王妃殿下。つまりはアーチボルトの母親だ。

 この国で最も地位の高い女性からの手紙に悪寒がする。

 碌なことではなさそうだ。



「やはり、王妃殿下からのお手紙ですか」



 ダルトンが片眉をあげ、したり顔で腕を組む。



「王妃殿下主催の晩餐会の招待状といったところですかね」



 まだ開封してすらいないのに。

 私は訝しげにダルトンを見上げる。



「ダルトン、あなた何か知っているの?」


「いいえ。何も。……ただ二、三日前、うちの商会に王宮から注文が入りましてね。ちょっと引っ掛かっていたのです。高価な品を短期間に大量に用意しろとか無茶を言うなぁと」


「王宮が? 何を注文したの?」


「『薔薇水』です」



 薔薇水は薔薇の花びらを蒸留して作るアディールの特産品である。

 化粧品の材料として使われるほか、食品の香り付けとしても好まれる身近な嗜好品だ。


 品質はそれこそピンからキリまであるが、王宮が求めるものは当然最高級品。

 生産量が少なく高価だ。


 かなりの代金を支払うことになるだろうとダルトンは言う。



「極上の薔薇水ですからね。安くはありません。こっちは商売ですから、売れと言われれば売りますが、数が数ですのでね。価格が高額すぎて……。他人ごとでありますが王家の財政が心配ですよ」


 ざっとそろばんを弾き、ダルトンは私に表示する。

 王太子以外の王子・王女たち2ヶ月分の宮廷費に当たる金額だ。



「そんなに高いの?? 薔薇水は消耗品でしょう?! それをこんなに大量に……。一体、何に使うのかしら」


「見栄っぱりの王妃様のことですからね。大理石の香油台でも作って薔薇水を香水代わりに使うんじゃないですかね。豪華なしつらえは、誰かを牽制をするには最高の手段になりますからね」



(王妃様がマウンティング?)



 最も高い地位にあるのに、誰に対して牽制する必要がある?



(レイチェルじゃあるまいし)



 私は小さく首を振り、封を切って手紙を広げる。


 表と同じ筆跡で丁寧に記された時節のあいさつ文、そして……。



「あなたのいう通りね、ダルトン」


「晩餐会への招待状でしたか?」


「ええ。選ばれた者だけが招待される秘密の晩餐会(シークレットパーティ)だそうよ。アーチボルト殿下の婚約者として私も招待されたらしいわ」



 となれば、パートナーはアーチボルトになるが。

 問題は追伸としてさらっと書かれた一文だ。


『アーチボルト王子は都合によりあなたとは同行できません。けれども、ローザ殿、王子の婚約者であるあなたが出席しないなどということもありえません』



 つまり。


 アーチボルトは別の誰か(おそらくはレイチェル)と参加し、未だ婚約者であるはずの私は惨めな姿を衆目に晒さねばならないということだ。


 しかも。

 絶対に逃げることは許さない、ときた。



(底意地が悪いわね)



 あまりに酷すぎて、さすが王妃殿下と称えたくもなる。

 贅沢な宴の最中に私が深い絶望と惨めさに打ちひしがれる姿を嘲笑いたいのだろうか。

 我が子可愛さのあまりに貴族としての品位をどこかに捨ててしまったようだ。



(アーチボルトといい、妃殿下といい……。なんて恥知らずなのかしら)



 我が子の不義理を棚にあげてまでも、私に制裁を加えたいのか。



(ますます婚約を破談にしなくちゃいけないわ)



 ーーーー負けられない。


 いいわ。

 向こうが売ってきた喧嘩ならば全力で買ってやる。

 受けて立とうじゃないの。

読んでいただきありがとうございます。

吉井です。


積みまくっている本や漫画をぼちぼち消化しています。

読めば読むほどに……才能あふれる世界にちょっと凹んでいます。

いやもう私は一体何をしているんでしょうか。

いつか彼らの住む世界の片隅にでも入り込みたいです。


ブックマーク・評価・いいね!嬉しいです。

頑張れます!!


では次回もお会いしましょう。

(週末か日曜あたりの更新になります)

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