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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

とある深夜バス

作者: 稲葉小僧

暇にあかせて書いてますホラー短編の一つ。


金がない時、遠くへ行きたければ、どうする?

俺は、今まさに、その状況。


ということで、俺が今、乗り込もうとしているのは深夜バス。

俺が乗ろうとしている深夜バスは、翌朝には日本の末端に連れていってくれるという代物。


さて、乗り込んで、座席を確認。

ふむ、後ろの方だったな……

ここか。


カーテンを引き、ちょっとした個室状態。


心理的に最悪な状況で、今から俺は旅に出る。

原因?

まあ、よくあること。

景気が悪化して、仕事は無くなり、付き合ってた女には金の切れ目は縁の切れ目とばかり冷たく振られ……

ニートだ家庭内警備だのという引きこもりになりたくないので、俺は強制的に家から離れることにしたわけ。


親は、もういない。

数年前に両方とも亡くなってる。

兄弟はいるが、兄の嫁には嫌われてる俺。

たまに実家に帰ってくると、嫌味ばかり言われる(兄のほうが家を出てる状況。俺は独身で実家暮らし)

まあ、そんな環境が嫌だってのもあるが。

でもって、金がなくても安く旅ができる深夜バスである。


発車してから一時間。

途中休憩でトイレへ。

ついでに、バッグに入ってる握り飯とサンドイッチ(両方ともコンビニ飯だ)で夜食をとる。

バスが発車し、それからは夢の中へ。


これ、夢だろうなぁ……

俺は、ぼんやりした意識で、自分の夢の世界を見ているような、そんな状態にある。


なんだろう、この感覚。

窮屈な、それでいて、安心できる自室に籠もっているような。


外部の音は聞こえる。

バスの中で、イヤホンかヘッドホンしているようなんだが、それが外れて音が漏れている奴がいて、周りに注意の声を浴びて、そそくさとスマートフォンらしきものをしまい込んでる。


イビキがでかすぎて、注意を受けてる奴もいる。

本人、無意識でやってるんだから、これはかわいそう。


俺は、というと、頭から毛布被って寝てる状態……

なんだよな、確か寝る前に毛布被ってた。


すったもんだあったが、数時間後には周りの騒音は無くなり、バスの走行音がするくらいで、安眠できる状態に。

あ、俺、夢見てる。

久々に夢なんか見る。

どっかの原っぱ、小さい頃の俺が走り回ってる。

あー、小さい頃は良かったよなぁ……

兄貴の後くっついて、走り回ってた。

小学校に入ると、その後のイジメが悲惨すぎ、俺には学校生活の良い思い出なんか一つもない。

俺の唯一の美しい、そして、何にも考えずに、ただただ走り回って笑ってた、幼児の頃の俺が一番輝いてた思い出。


他人にゃわかるまい。

他人と競争したり勝負して勝てる奴の意見は、俺達、生まれついての負け組には届かない。

もっと頑張れ?

やればできる?

それは、頑張れる奴、やれる奴に言ってくれ。


出る杭は打たれる。

これを六歳から身体に暴力で叩き込まれる奴の耳に、頑張れ?やればできる?

じゃあ、お前、俺の立場になったら、その言葉が耳に入ってくるのか?

学校でイジメを受けていても、同級生も担任も、誰も助けてくれないんだぞ。

それを12年間、続けてみろよ。

根性、捻じくれひん曲がった大人の出来上がりだ。


俺は引きこもりにもニートにも(幸運なことに)ならなかった。

まあ、助けてくれる人やら、親身になってくれる奴なんか、どこにもいなかったけどな。


就職したのは、とあるソフト開発会社。

悲惨なほどのブラック会社だったが、俺には都合が良かった。

孤独で、時間のリミットのある注文を、俺は徹夜を何十回も繰り返しながらもこなしていく。

他人と会わない、そんな会社内での孤独状態も、俺には好都合。

昇進の話もあったが、俺はことごとく断る。

一人で仕事する方が性に合ってるので、他人を使う立場にはなりたくありません。

そんな返事を繰り返してたら、いつしか昇進の話も無くなる。

社交的ではない俺が、参加するイベントは、新人の歓迎会、同期や上司の送別会、そして、忘年会。

ちなみに新年会は参加しない(そこまで付き合いが良くない)


十年以上も独自ルールで働き、それなりに実績作り、そろそろ独立を、とか考えてたら。

一気に世界が不況に叩き落とされた。

新型の感染病が世界を席巻し、欧米では新たなスタンスでの商道徳が立ち上がり、お隣の国では、中小国乗っ取りが進行中。

おまけに別のお隣の国は、隣国に突如、戦争を吹っかける。


もう、世界中が狂気の沙汰。

それに巻き込まれた小さなソフト会社など、一息で吹き消されるローソクの炎。

あっという間に受注は無くなり、自転車操業やってた会社は、ハイ、それまで。

俺も、出社したらビルのドアに一枚の張り紙が……

はい、会社が潰れました、今日から君らの働く会社は存在しません……

失業保険で半年は食いつなげるとの、某就職サポートセンターの話だったが、そこまで落ちたくないので、この一人旅となった。


バスは走る、俺の人生をなぞるがごとく。

時たま停車して、トイレ休憩を入れるようだが、起きるやつはあまりいない。

眠りこけて、起きるのがツライやつばかり。


そのうち、俺は夢も見ない深い眠りに入る。

ふわっと、一瞬、身体が浮いた気がしたが、起きるまでもないと無視。


翌朝の報道ニュースより、


「今朝、深夜2時過ぎに、***市より****県**行きの深夜バスが、ドライバーの居眠りで高速道路より落ち、運転手と乗客合わせて20名、全て死亡しました。ただいま、警察庁より死亡者リストの作成が行われているようで、発表され次第、番組でお知らせします」


後で、視聴者から大量の苦情が入ったニュース番組では、お詫びの告知を入れることとなった。


「朝のニュース報道番組で、ニュース原稿を読むアナウンサーの声にかぶせて、「ざまあみろ」という別の人間の声が聞こえたとのことです。多数の苦情が来たため、局の方で今朝のニュースを再度チェックしたところ、確かに別の人の声が入っておりました。ディレクターでも、ADでもありません。局アナにも、他のバラエティ関係にも、こんな声の持ち主はいないと、ニュースファイルを検証した全てのものが断言しています。この度は、ご迷惑をおかけしまして、まことに申し訳ありませんでした……でも、誰なんでしょうか?」



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