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作者: 土 凛斗

大学に課題として提出した作品です。

重複投稿しても問題無いと個人的に判断したので、投稿します。

虎が入ってきた。

私が銭湯で汗を流しているところに、なんとも雄大な虎が入ってきた。

この銭湯では玄関口に「刺青お断り」と書いてあるが、「虎お断り」とは書いていない。それゆえ誰もこの虎に退店を言いつけることが出来ないのである。

しかしながら、虎とはこういうものなのだろうか。私が知っているそれとは違い、器用にケロリンの風呂桶を使ってかけ湯をしているし、床を歩く様は、なんとも見事な二足歩行である。

体を流し終えた虎は、湯船に浸かっている。だがあまりに大きなその体のせいで、湯のほとんどが溢れてしまっている。浴室を出て牛乳を飲んでいる時も、その体で長椅子を丸々埋めてしまっているのである。



私は一週間後、またこの銭湯にやってきた。浴室の扉を開くと、また奴が居た。奴は水風呂に浸かっていた。サウナで汗をかいたのであろうか、しかし奴の肉体は汗をかき痩せるどころか、膨らんでいるようにも見える。

体を洗っていると、私の隣にいる男が私に話しかけてきた。その男曰く、その虎は私がいない間にも毎日風呂を浴びに来ては、電気風呂、水風呂、その他諸々を含む全ての湯船の湯を抜いていたようである。

「懲らしめようにも、何されるか分からんから怖くてなぁ」男はそういうと、底の浅くなった湯船に浸かった。もはや足湯である。

その時だった。脱衣所へ向かう虎が突然、奇妙な音をたてながらしぼんでいった。バレーボールと見紛うほどに小さくなったのも束の間、中からはなんと狐が出てきたのである。なるほど、狐とはつままなくても人を呆気に取ることができるのか、と私は思った。

すると次の瞬間、誰の仕業とも分からないが、ケロリンの桶が私の視界を過ぎり、狐にクリーンヒットした。そして「トラトラトラ」という怒号と共に、虎(改め狐)への怒りを溜め込んでいた男たちが、一斉にケロリンの桶を投げ始めた。私に話しかけた男性は、水風呂の水を何度もケロリンで掬っては、狐へぶっかけていた。



さらに翌週、私が体を流しに来ると、例の狐がまた湯船に浸かっていた。

しかし前回と違うのは、その狐目当ての客で銭湯が賑わっていたところである。番台のおばちゃん曰く、虎の衣を借りた狐は客寄せとして店に棲みつくことで許しを受けたらしい。抜け毛で湯船の清掃が大変そうだな、と私は思った。しかしそれでも店主が入湯を許可するのだから、それを上回るほど利益があるのだろう。

「風が吹けば桶屋儲かる」と言うが、ケロリンを製造する会社は今頃儲かっているだろうか。


ご読了、ありがとうございました。

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