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魔王、全力の土下座を決める

「ほ、ほ、ほ、本当に申しわけございませんなのじゃぁぁぁぁ!!!」


 魔王が地面に頭をこすりつけている。

 その様子は本当に魔王なのか疑いたくなるレベルだった。


「ほれ! エルゼムも一緒に謝るのじゃ!! すぐに!!!」

「も……申し訳ありません……」


 エルゼムも魔王に頭を押されて頭を下げる。


「これは別に裏切ろうと思ったわけではなく……」


 魔王は今回の件の言い訳を始める。


 エルゼムとの一件の後、俺は一度行ったことがある場所にワープする魔法を使ってエルゼムと共に魔王城へと戻ってきていた。


 戻ってきて事情を伝えると、魔王はものすごい勢いで土下座をかまし、このような状況になったというわけだ。


「……そういうわけで、これは入れ違いになっただけなのじゃぁ!!」

「分かった。そういうことであれば問題はない。俺の落ち度もある」


 実際のところリーヴェをあんな目にあわせたエルゼムは許しがたい相手ではあるが、これは俺のせいでもある。

 勇者だからリーヴェなら遅れを取らないだろうという考えが甘かったのもあるし、ワープを利用してもう少し良い方法が考えられたかもしれない。


 それにしても、リーヴェが隙を見せるなんてエルゼムは一体どんな方法を使ったんだ。


「そう言っていただけるとありがたいのじゃ」


 魔王の様子を確認すると、本当に焦っているようだったので裏切る気持ちがなかったというのは本当だろう。


 そこでふと横を見る。

 すると、エルゼムは何が起こっているのか分からないという間の抜けた顔をしており、加えて何故か涙を流していた。


「大丈夫なのか? 部下が複雑な感情の顔をしているが……」

「ああっ!? エルゼム、どうしたのじゃ!?」


 魔王がエルゼムの異変に気づいてあわててエルゼムに声をかける。


「い、いえ、私は魔王様のお役に……立ちたかっただけなのに……」


 エルゼムの両目からはどんどん涙が溢れていた。


「あれ……どうして……すみません、なぜか涙が……」

「わああぁぁぁぁぁ!? これはわしが! わしが悪いだけじゃ! エルゼムはよくやってくれたのじゃ! すまなかった、頑張ったエルゼムにねぎらいの言葉をかける方が先じゃった!」

「い、いえ……魔王様の意図を汲み取れなかった私がいけないんです……」

「そんなことはない! エルゼムがわしのために、魔族のために頑張ってくれていたことは知っておる! そうでなければ勇者暗殺などという重要な任を負わせたりするものか!」

「魔王様……」


 エルゼムはクールな美女というイメージがあったので、見た目は幼女な魔王にエルゼムがよしよしされているのはだいぶ違和感がある。

 だが、考えてみればエルゼムは魔族だ。

 年齢もよくわからないのである。

 もしかしたら見た目と実年齢は違うのかもしれない。


 それに、魔族とひと括りに言っているが様々な種類が居る。

 魔王のような人型も居れば、魔王城ではその他の魔族も大勢見かけた。


 しばらくして……魔王がエルゼムをなで続け、ようやく落ち着いたようだ。

 魔王はエルゼムに何かを告げると、エルゼムは城の方へと帰っていった。


 残った魔王が口を開く。


「待たせてしまって申し訳なかったのじゃ」

「いや、別に行き違いだと分かれば用はすんでいるからな」

「本当に申し訳なかったのじゃ……それにしても、これからどうやって勇者を説得するつもりじゃ?」

「今回の一件のおかげでリーヴェも少しは素直になってくれれば説得はしやすいのだが……そういう意味では結果的に良かったとも言えるか」

「仮に説得に成功しても、国が黙っておらんのではないか?」


 魔王には痛いところを突かれてしまったな……

 実際の所、国は勇者の力を利用することをやめないだろう。


「それは……まぁ……そうなんだが」

「それだけの力がありながら国に縛られるというのも大変じゃのう。いっそ人間たちが魔族と友好関係でも結んでしまえば解決するのにのう」

「それだ!」


 王国と魔族の友好関係。

 それが実現すれば少なくとも魔族との戦いにリーヴェが利用されることはない。


 今現在、リーヴェにとっての問題は国に戦力として利用されることだ。

 今の勇者パーティーは解散するだろうが、国が新たなパーティーを作り上げてリーヴェに魔族討伐の任を続行させることは想像に難くない。


 しかし、もしも魔族と友好関係が実現すれば、リーヴェの行動が制限されることはなくなるはずだ。


「なんじゃ!? 今のはさすがに冗談じゃぞ! そもそもわしらと人間は相容れぬ存在……戦争が始まって以来、停戦したことすら一度もないのじゃ」

「俺も最初は魔族は恐ろしい存在だと聞いていたが、こうやって話してみれば全然普通じゃないか。友好関係を結べてもおかしくないんじゃないのか?」

「わしからしたらお主の方がよほど恐ろしいが……」

「なんか言ったか?」


 魔王は「いや、何も」と目をそらす。


「そもそも、この戦争は互いに土地を守るための戦争。譲りはせんじゃろう。我らは固有の住処を持ちづらい種族ではあるが、ここを追い出されてしまっては行くところなどない」


 ふむ……一理ある。

 仮に魔族と友好関係を結んだとしてもあくまで円満に行われなくては意味がない。


 ……まぁ最悪リーヴェが生きてる間だけでも平和が保たれていればそれで構わないんだが、さすがにそれを魔王の前で言うわけにもいかない。

 それに、円満に解決できるならそれに越したことはないだろう。


 そうだ、俺に一つ考えがある。


「じゃあ、魔族の土地が増えたとしたらどうだ?」

「は?」

「いや、ほら、ここよりさらに西に禁忌領があるだろ?」


 魔族の領土は大陸の西の方に位置している。

 だが、この大陸の最西端が魔族の領土かと言われるとそうではなかった。


 魔族領のさらに西、そこには禁忌領と言われる文字通り禁忌の土地があった。

 人間も、魔族も、誰も寄り付かぬ禁断の地だ。


「まさか……お主……」

「禁忌領が入れないのは純粋に住んでいる”魔獣”があまりに凶暴で探索すらままならなかったから……そうだな?」


 禁忌領が禁忌とされている理由は、そこに入った者は例外なく禁忌領に住む魔獣に殺されたからだった。

 一般の獣よりも固い体皮と宝石のような硬化した部位を持つ魔獣は、はるか昔にその地に足を踏み入れた人間や魔族を皆殺しにしてきた。

 そんな歴史があるからこそ、禁忌と呼ばれ誰も寄り付かぬ土地となっていた。

 たとえ勇者や魔王であっても、魔獣と戦えばただではすまないだろう。


 幸いだったのは、魔獣は禁忌領から出てくることがなかったため、禁忌領に入らなければ魔獣の被害にあうことがなかったことだろう。


「魔獣を倒そうとでも考えているのか? それはお主でもさすがに……。いや……わしも魔獣をこの目で見たわけではないから、正確には分からんな……」

「俺もできるかどうかはわからないが、禁忌領の魔獣の排除に成功したら土地の問題は解決するだろう。そのときは禁忌領の土地を魔族に譲ろう」

「簡単に言ってくれるのう……土地は問題の一つであって、土地があったからと言って和平はそう簡単なことではないと思うが……」


 確かに、魔王の言う通りことはそう簡単ではないだろう。

 しかし、冷静に考えてみると魔族とここまで長く争いを続けている方がおかしいのだ。


 この戦争の始まりは当時影響力を強く持っていたとある宗教勢力が先導して行ったものだと聞いている。

 その宗教では魔族を悪と考えて排斥する教えがあった。


 今でもその宗教は残っているものの、当時ほどの影響力はない。

 それならば、魔族と和平を結ぶ道があってもよいのではないのか。


「まぁ、無理じゃと思うが、お主が禁忌領の魔獣を排除できるようなことになればそのときは考えるのじゃ。もとより魔族はこの魔王城を除いて定まった住処を持たん。禁忌領が本当に今より住みやすい土地であるならば、喜んでその提案を受け入れよう」


 魔王がそう言ったあと、そのタイミングで城からエルゼムがやってきた。

 手には小さな箱を持っている。


「魔王様、言われていたものをお持ちしました」

「おお、エルゼム、助かったのじゃ」


 そう言うと、魔王はエルゼムから箱を受け取り、そのまま俺の方に差し出してきた。


「これは魔王城で作っているパンケーキじゃ。お詫びにと思ってエルゼムに持ってきて貰ったから持って帰ると良い」


 俺はその箱を受け取る。

 パンケーキというと、多分リーヴェが喜ぶだろう。

 さて、ちょっと長居してしまったし、そろそろリーヴェの様子も心配だ。


「今日のところはとりあえず帰る」

「そうか、今回の件はとにかくすまなかったのじゃ」


 そう言って、俺はワープの魔法を使い、魔族領を発つのだった。


 ……


 残されたエルゼムが呟く。


「魔王様……あの男は魔王様がそうまでしなければいけない男なのでしょうか」


 魔王が言葉を返す。


「わしの判断は……絶対に間違っておらん……」


 魔王の背中には、やはり哀愁が漂っていた。

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