魔王との交渉(脅迫ともいう)
「お前が魔王か?」
「な、何者じゃぁぁ!?」
俺は魔王城の結界を破った後、魔族に見つからないように魔王城の内部へと潜入した。
仮に見つかったところで今の俺ならば問題ないと思うのだが、あくまで俺の目的はリーヴェに危害を加える者の排除だ。
魔族を排除したいわけではない。
明らかに別室と比べて豪華な作りになっている部屋を魔王の部屋と当たりをつけた俺はそこに隠れていたのだが、やってきたのは女の子だ。
魔王城に居る以上は魔族のはずだが、女の子の部屋に侵入してしまったようで若干罪悪感がある。
「魔王じゃないなら、魔王の居場所を教えてくれ」
「人間風情が、単身で来たことを後悔するが良い! ダークネスチェーン!」
俺の四方の空間から、オーラをまとった鎖が現れて向かってくる。
魔族の使う暗黒魔法か。
しかし、俺はそれらの鎖をすべて素手で掴む。
「俺は話し合いに来ただけだ。それで、どっちなんだ」
「な、な、魔王たるわしの魔法を素手で止めるじゃと……!? まさか、結界も気のせいではなくお主が……!?」
「やっぱり魔王なのか、俺は話があって魔王城に来たんだ」
「それならば、これはどうじゃ! ブラックホール!」
突如前方に現れたのは真っ黒く小さな穴。
しかし、その空中に浮かんだ小さな穴は尋常ではない力で俺の身体を引っ張っている。
それを俺は手刀で破壊した。
「なぁっ!? わしのブラックホールがいともたやすく……!?」
「とにかく、話を聞いてほしいんだが」
「話じゃと……?」
「勇者リーヴェの元に送り込まれている暗殺者エルゼムについてのことだ」
そう言うと、魔王を名乗る女の子の顔つきが変わる。
「まさか、それを知っているということはエルゼムはしくじったということか。お主ほどの者が居るということは、エルゼムはもう……」
「いや、今もリーヴェを殺すために勇者パーティーで頑張っているはずだ」
「……?」
魔王はきょとんとする。
「では、一体なんだと言うのじゃ」
「エルゼムに、リーヴェの暗殺をやめさせてほしい」
「どういうことなのじゃ!?」
「リーヴェを殺すのはやめてほしいというそのまんまの意味だが」
「いや、意味が分からないのじゃが!? それだけお主に力があるのなら、エルゼムか……もしくは直接わしを力で排除すればいいのではないのか!?」
「エルゼムを排除したら次の暗殺者が送り込まれてくるだけだろう。そして、魔王を倒すと均衡が崩れる。リーヴェの幸せのためには、魔王は生きているのが理想だ」
「……? お主、頭は大丈夫かの……?」
魔王はあからさまにドン引きしている。
もはや隠す気もなく「うわぁ、ヤバイ奴が来た……」という顔になっている。
……うーん、俺の伝え方が悪かったかもしれない。
まず大前提として、俺としては魔王には死んでほしくない。
もし魔王が死ねば、リーヴェの力は人間同士の戦争に利用されるだろう。
それはリーヴェにとっても過酷な道だし、俺の望むところではない。
一方で、エルゼムを手にかければ次の暗殺者が送り込まれてくるだけだ。
まぁ、魔王にとってこれが受け入れがたい提案であることは当たり前だ。
だから、こちらも持っているカードを切って交渉に当たろう。
「ちなみに聞きたいんだが、魔王が勇者と1対1で戦ったらどちらが勝つ?」
「わしにそれを聞くのか!?」
「参考までに聞いておきたい」
魔王はわけがわからないという顔をしながらも、渋々答えてくれる。
「ううむ……1対1であればわしのほうが有利じゃろう。絶対ではないが、フィールドを選ばぬ単純な戦闘では搦手の少ない勇者は不利じゃ。それに、勇者はまだ子供であって現時点ではそこまで強くない」
「じゃあ、もし勇者が3人だったとしたら?」
「そうなればわしの勝ち目は薄いじゃろうな。勇者は一人で人間と魔族のパワーバランスを変えている存在じゃぞ。そう何人も居られたら困る!」
「そうか……」
この様子なら大丈夫そうだな、と俺は心のなかで頷く。
「だいたいお主は一体何者なのじゃ! ただ者ではないじゃろうが、目的が全く見えてこぬぞ。なぜわしがこのような話につきあわされなくてはならぬ!」
「仮にだが、もし勇者の力が今の5倍になったらどうする?」
「ぬぬぬ……マイペースすぎるやつじゃな……。もし勇者の力が5倍になぞなったら魔族は即全面降伏じゃ。少しでも被害を減らすのが先決じゃろう。あまりこのようなことは魔王として言いたくはないがな」
「そうか、参考になった」
「なんの参考じゃ!?」
なるほど、勇者の力が5倍になったら即降伏か。
であれば、十分交渉になるだろう。
「魔王、俺は交渉をしたい」
「なんじゃ、言うてみろ」
「エルゼムに暗殺はやめさせてほしい。代わりにリーヴェが魔王を討伐しないように俺が説得する」
「なんじゃと? お主は一体何者なんじゃ」
「俺は勇者パーティーの荷物持ちだったアルムだ」
「アルムじゃと……? 報告には上がっておったが……戦闘力はないと」
「それは間違いだ。俺は勇者の10倍の力を持っている」
「ほー、強いんじゃのぅ……って10倍!? お主、今10倍と言うたか!?」
魔王が一気に後退りする。
ズザザザザと音がするような見事な後退りだった。
「俺が望んでいるのはリーヴェの平穏だ。あくまで平和的に交渉をしたい」
「いやいやいや、ちょっと待つのじゃ。なぜ荷物持ちのはずのお主が勇者の10倍なんて言うとんでもない力を持っておるのじゃ!? それを聞かないと交渉なんて続けられるはずがないじゃろう! もはや一方的な脅しじゃ!」
「ふむ……じゃあ説明しよう」
俺は魔王に対して俺の強さの秘密を明かす。
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