表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/22

すべてが終わってもアルムは【分からせお兄さん】なんだ

 あとになって俺がリーヴェから聞いた話によると、リーヴェはあのとき土壇場で【超勇者】という才能に目覚めていたらしい。


 【超勇者】とは「勇者よりはるかに強い力を発揮できるが、その力は一時的なもので使用後に才能は消えてしまう」という才能であった。


 あのとき俺を助けたいと強く願ったリーヴェは、【超勇者】を覚醒させたというわけだ。

 大人である俺が助けるべきだったのに、情けない限りである。


 とはいえ、【勇者】は魔剣ティルフィングとともに消滅してしまった。

 そして、【超勇者】もまたその強すぎる効力と引き換えに消滅してしまった。

 今のリーヴェはただの女の子に戻ってしまったというわけだ。


 ……ただ、これはある意味でリーヴェにとっては良いことなのではないかと俺は思う。

 【勇者】の才能がなければリーヴェが国に利用されることはない。

 これまで俺のやってきたことは無駄になってしまうが、リーヴェの平穏を守るという目的が達成できるなら些末な問題だ。


 【勇者】の才能がなくなることでリーヴェを取り巻く環境は変わるだろう。

 これまで勇者だからと寄ってきた者たちは興味をなくすだろうし、それどころか才能がない人間として生きていくことになる。


 でも、俺はリーヴェに最高の才能があることを知っている。

 あの戦いの中で見せたリーヴェの覚悟は、誰にでもできるものではなかった。

 それこそがリーヴェの勇気という才能であり、真の【勇者】だと思うのだ。


 リーヴェの元から人が離れることがあっても、俺だけは離れない。

 大人としてリーヴェを正しく導くことが、俺の役目なのだから。


*


「カンパーイ!」


 魔王城の食堂に、数人の人々が集まっていた。

 テーブルには豪勢な食事が用意されている。


「パンケーキも、もちろんあるんだろうね?」

「安心してほしいのじゃ! できたてを提供するためにわざと遅れせておる。エリスのために大量に準備をしてあるから安心するのじゃ!」

「さすがは魔王ゼクス、分かってるじゃないか~!!」

 

 俺はそんな会話をしているエリスと魔王を見つめる。


 実を言えば、俺はエリスにはお世話になりっぱなしだった。

 リーヴェが暴走したあの夜、エリスはすでにあの場に居たらしい。

 戦力的には力になれないので隠れていたそうだが、【占い師】によって不吉なことが起こることを予測していたエリスは、あの辺一帯の住民をいち早く避難させたということだった。

 そのおかげで、あれだけの事件でありながら死者はゼロ。

 怪我人は出たが、それだけでとどまったのは奇跡と言えよう。


 ……ん?

 それにしても、魔王ってゼクスって名前だったのか……知らなかったぞ……


 そんな事を考えていると、エルゼムが近づいてきた。

 一応、俺たちの前に姿を表すからなのか、エルゼムの姿に擬態したままのようだった。


「魔王様、こんなに魔王城に人を招いて大丈夫なのですか?」

「土地の問題が解消した今、わしらは人間との和平路線を探るつもりじゃ。すぐにとはいかないかも知れないが、きっと上手くいくじゃろう。それに、わしらには心強い味方が……」


 そう言って、魔王は一人の少女を見る。


「おまえたちが人間と争っていたことは理解した。わたしはどちらかと言えば人間を恨んでいる。復讐をする気はないけれど、魔族が人間から身を守るために力を貸してほしいというのであれば、力になろう」


 言葉を返したのはメイズだった。

 あれからメイズは約束通り禁忌領の魔獣をすべて消滅させていた。


 すぐに魔族全員が移住というわけにはいかないので、一部の魔族が先に禁忌領に向かって新魔王城を建築している。

 この旧魔王城もしばらくは維持しながら、魔王は人間と和平を結べないか探っていくとのことだった。


 ちなみに、力をなくした俺がこんな危険なところまで来れているのはメイズの力によるものだ。

 メイズは遥かな時を生きてきただけあって、今の時代では失われた魔法にも精通していた。

 その中の一つにマルチワープという魔法があり、それは複数人を同時に転移させることのできる魔法だったのだ。


 メイズの要望で一度街にもメイズは来たことがあり、それ以来メイズが移動役をやってくれている。


 そして、最後に口を開いたのは……


「……お兄ちゃん、これ美味しいよ!」


 メスガキ勇者……いや、ただのメスガキのリーヴェだ。


 あの夜の事件を一部の人々には目撃されていたが、国としては勇者を捕まえるわけにもいかず、カイエンを捕らえて処刑することでケジメを付けた。

 また、実際に魔剣ティルフィングが見つかったことも大きい。

 今回の事件は危険思想団体による大規模テロとして処理された。


 その後、リーヴェの勇者の力がなくなったことを知った国は、この件を公表すべきなのかどうなのかということで色々と議論をしているらしい。

 リーヴェがどうなるのかは今の時点ではまだわからないが、利用価値がない者は切り捨てられるのが世の常だ。

 おそらくはリーヴェのことは忘れられて、ただの一般人となっていくのだろう。


「ああ、そうだな。好きなだけ食べると良い。残した方が失礼だからな」

「遠慮はしないで良いのじゃ! わしにしてみれば、お主は厄介事の元凶ではあったが、今となってみれば魔族にとって大きな利益をもたらしてくれたのじゃからな」


 利益とは、禁忌領のことだ。

 魔王としては俺が禁忌領すらも攻略してしまうとは思っていなかったようだが、実際にはメイズの協力のおかげもあって上手くいった。


 その後の調査からの推測なのだが、禁忌領の土地は魔力の含有量が多い。

 それはメイズが使った創生魔法の副作用なようなもので、禁忌領の植物などが結晶に覆われているのもこれが原因のようだ。


 そして、魔族にとってその魔力が多い土地というのが、非常に住心地の良い土地であったらしい。


 元々「魔族」という言葉の由来は「魔力を持つ者」から来ているとも言われている。

 人間が持つ「才能」はない代わりに魔力を元にした身体強化や魔法の行使を行うのが魔族であるというわけだ。


 そんな魔族と魔力の多い土地というのは相性が良かった。


「もちろん、メイズ殿が来てくれたのも大きいのじゃがな」

「わたしは魔族ではない。わたしはわたしの好きなように行動させてもらう」


 メイズがそっぽを向く。


 ……が、別にメイズは悪いやつではない。


 リーヴェの話を聞いてリーヴェを助けようとしてくれているし、そもそもこの状態を一番楽しんでいるのはメイズなのではないかと思う。

 そうでなければ、移動役など買ってでないだろう。


 人間を恨んでいるとは言っていたが、魔族の和平路線には賛成だったようだし、おそらくは今の世界で最も力を持つ調停者として活躍してくれるだろう。


「うーむ……胃が痛むのじゃ……」


 まぁ、魔王にとっては大変かもしれないな。

 自分で言うのもなんだが、俺という爆弾の次はメイズという爆弾がやってきたのだから。

 きっとメイズなら魔族とも、そしていずれは人間たちとも仲良くやっていけると思うが、メイズの持つ力が異常なことには変わりない。


 もしもメイズが本気を出せば魔族どころか人間だって滅ぼせるかもしれないのだ。

 そんな存在がそばにいるのは、確かに魔王にとっては胃が痛いだろうな。


「あれ、盟友~! 残すほうが失礼とか言ったのに、盟友が一番食べてないんじゃないかい?」

「すまん、考え事をしていたんだ」

「考え事? なんだい、言ってみたまえよ」

「いや……」


 俺は言うか悩んだが、意を決して言うことにした。


「俺のやっていたことは本当にリーヴェのためになっていたのかと思ってな……。ここに居るみんなにも迷惑をかけた上に、最後にはリーヴェに助けてられてしまったからな……。本当に……申し訳ないよ」


 俺がやったことと言えば、魔王に無理矢理お願いを通し、エリスには様々な頼み事を押し付け、禁忌領で静かに暮らしていたメイズを引っ張り出す……今思ってみれば勝手なことばかりだ。

 それに、最後の最後で結局リーヴェに守られてしまった。


 本当に俺の行動は正しかったのだろうか。


「さっきも言ったのじゃが、わしからすれば本当に迷惑じゃった。いきなり押しかけてきて勇者の暗殺をやめさせろなどと言ってくるのじゃからな」

「……それは、すまなかった」

「じゃが、お主が人間との和平路線を考える鍵になったのも事実じゃ。それに、エリスという新たな友も連れてきてくれたしのう。気にするでない」


 魔王は腕組みをしながら俺を一瞥した。


「盟友は世界の救世主なんだからね~。気にしなくて良いのだよ。盟友が動くだけで面白いんだからさ~」

「本当か?」

「退屈は死よりも恐ろしいことだよ。力を失ったとはいえ、盟友ならまた何かを起こしてくれると信じているから、いつでも厄介事を持ってきてくれたまえ」


 エリスがサムズアップで目線を合わせてきた。


「わたしは……心のどこかでわたしを変えてくれる人を探していた。おまえが来なければ、わたしは未だにあそこに囚われていた」

「強引だった気もするが……」

「いいの。これはわたしの選択。おまえに選ばされたわけではない」


 メイズは腰に手を当てて、赤い瞳でこちらを射抜く。


「……お兄ちゃん、リーヴェこそ謝らないといけないよ」

「どうしてだ?」

「リーヴェは……本当はお兄ちゃんを……」


 リーヴェが真っ赤になって俯いた。


「だ……大事に思ってたのに、あんな酷いことを言っちゃって……ごめんなさい!!!」


 リーヴェが俺のことを大事に思ってた?

 じゃあ、罵詈雑言の数々は照れ隠しだったとでも?


 ……年頃の女の子はわからないものだ……


「……そう思ってくれていたなら嬉しいよ」

「お兄ちゃん、リーヴェのために色々してくれて……ありがとう!」


 笑顔でそう言うリーヴェは、いつの間にか大人びて見えた。


 きっと、こうして子供は成長していくのだろう。


 リーヴェは少し特殊な例かもしれないが、困難を乗り越え、自分の気持ちと向き合い、そうした先に成長があるのだ。


 そして、大人にはそんな子供の成長を見守る義務がある。

 それはどんなに力を持つ子供でも、そうでない子供でも、等しく変わらない。

 ときに優しく、ときに厳しく、正しく導いてやることこそが大切だ。


 ……俺はリーヴェに正しい道を示せただろうか。

 それは、今はまだわからない。

 だが、きっと示せたと信じている。


 今考えてみれば、俺の才能【分からせお兄さん】とは、「正しい道を分からせる」という意味だったのかも知れない。


「みな、パンケーキができたのじゃ!」

「このときを待っていたよ~」

「パンケーキ……? 初めて食べる……」


 シェフの魔族が大量のパンケーキを運んできた。


「あっ、これあのときリーヴェが食べたパンケーキだ!!」


 そんな何気ないリーヴェの笑顔を……そしてみんなの笑顔を見て、俺はこれまでの俺の努力は無駄じゃなかったと思い直した。


 俺は、この笑顔を守ったんだ。


 ……この先、リーヴェがどんな道をたどるのかは俺にはわからない。

 人間と魔族の関係も大きく動いて時代が変わるのかもしれない。


 だが、リーヴェが大人になるまで見守り続けよう。


 それが、【分からせお兄さん】を持つ俺の責務なのだから。


*


 メスガキ勇者に追放された男、本当は【勇者】よりも最強の【分からせお兄さん】でした ~残りの仲間は敵のスパイってことも知らないんだろうな。大人をナメるから痛い目を見るんだ!今頃泣きついたってもう遅い!~


 完


ここまで読んでいただいて誠にありがとうございました!


評価もしていただいて感謝の念に堪えません!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ