メスガキは剣よりも強し
アルムは、思わず目をつぶってしまっていた。
リーヴェがバラバラになるところなんて、見たくなかったからだ。
アルムの心臓は早鐘のように打ち、永劫にも感じる時間が過ぎた。
実際には、5秒か、10秒か……
アルムがゆっくりと目を開ける。
そこでアルムが見たのは、斬撃を受けてなお立つリーヴェの姿だった。
「リーヴェ! 大丈夫か!?」
リーヴェが振り返る。
その姿は斬撃を受けたはずなのに、何事もなかったかのようだ。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんはそこで見ていて」
「なんだとッ!?」
カイエンと名乗った男が焦って斬撃をさらに繰り出す。
今度は先程のようなお遊びではない。
神速の斬撃が一瞬にしていくつも飛び交った。
しかし、リーヴェは……
「ざぁーこ!」
すべてをただ手を前に出すだけで受けきっていた。
あれは……おそらくは防御魔法だ。
しかし、その強度は以前のアルムを凌ぐほどに凄まじい。
「ならばこれなら!!」
カイエンは剣を腰に構え、独特な構えを取る。
それは……居合の構え。
左手を使い弾くように剣を加速したすべてを断ち切る神速の斬撃。
魔剣の力で身体能力も強化されているのか、カイエンが凄まじい速度の踏み込みから居合を放つ。
それをリーヴェは……
「え~、強そうな技使ったのに、素手で止められちゃったね」
なんと右手で白刃取りしていた。
「離せッ!」
「えー、どうしよっかなー」
カイエンは力を込めて剣を振っているようだが、リーヴェはいともたやすく剣を掴み続けていた。
カイエンは力強く剣を引き続ける。
「じゃあ、離してあげるね」
急に手を離されたカイエンはよろめいて尻餅をついてしまう。
「戦闘中に尻もちとか、雑魚すぎて笑っちゃうんですけど!」
「この……ガキがァァァ!!!」
挑発されたカイエンは体勢を立て直し、全力で剣を振るった。
ただ力に任せた一撃。
しかし、その威力は絶大だ。
だが、結果は想像を絶するものだった。
バキン!
……そんな音とともに、魔剣の剣身が折れたのだ。
「……????」
「ごめーん、折れちゃった! その剣、よわよわ過ぎたみたい!」
リーヴェは折れた剣先をキャッチして、カイエンの前に放り投げた。
カイエンは折れた魔剣を見つめて吠えた。
「馬鹿なッッ!? なぜ【勇者】の才能を失ったはずのお前にそんな力がある! 俺は【勇者】をも越える力を手にしたはずだァッ!」
「なっさけなーい! あれだけ意気揚々と力を見せびらかしてたのに、剣を折られただけであっけなく負けを認めちゃうんだぁ?」
「こっ……このガキがァァァァァ!!!!」
カイエンは冷静さを失っていた。
普通に考えれば、リーヴェの力は異常なものである。
魔剣を使って勝てなかったということは、もはやカイエンに勝ち目はない。
しかし、メスガキに挑発されたカイエンは折れた剣を捨てて殴りにくる。
「ぐァッ!」
思いっきり殴りかかったカイエンが拳を押さえて痛がった。
当たり前だ。
魔剣の斬撃すらリーヴェは防いでいたんだ。
素手で殴りかかったところで岩の壁を殴るようなものだろう。
「プププ、ださすぎ~! 」
「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
我を失ったカイエンは思いっきりリーヴェを蹴った。
だが、そんなことをすればどうなるか目に見えている。
ボギッ……
痛々しい音とともに、カイエンの脚があらぬ方向に曲がった。
「ぐあああああああああ」
「えっ、リーヴェなにもしてないんですけど……」
カイエンは脚の痛みで地面に手をついた。
片足ではまともに歩くこともままならない。
それでもカイエンは最後の力を振り絞って殴りにかかろうとするが、脚が言うことを聞かなかった。
その場に崩れ落ちたカイエンは、気絶してしまった。
こうして、場に静寂が訪れたのであった。
戦いはこうして幕を閉じた。




