守る者と守られる者
剣を構えたリーヴェが踏み込む動作を取ったと思うと、一瞬にして姿が消えた。
常人ではあまりの速度にワープしたのかと錯覚するような超高速の突進。
構えた剣の剣先は、俺の身体を捉えている。
俺はその剣先をすんでのところで防御魔法でそらす。
直接当たらないように、斜めにして受け流した。
この剣は直接受けるのは危険だ。
本来リーヴェが俺に勝てるはずがないのだが、どういうわけかリーヴェの力が遥かに増している。
今の状態でもろに攻撃を受ければ、防御魔法ごと切断されかねない。
続くリーヴェの連続突きを、ステップとインビジブルによる撹乱で切り抜ける。
インビジブルの魔法を使って完全に透明と化した俺をリーヴェは見ることが出来ていないようだったが、闇雲に振られた剣が勝手に動いたかのような軌道でこちらを狙ってきた。
先程の無理な体勢からの攻撃といい、おそらくこの剣は自我を持って動いていると考えていいだろう。
そんな代物が存在するのかは分からないが、そう思って動いたほうが良い。
「ほらほら、逃げないと当たっちゃうよ!」
リーヴェの猛攻は止まらない。
クソ……このままではジリ貧だ。
リーヴェが相手では攻撃することができない。
剣を取り上げれば止まるのかもしれないが、これだけの強さとなっているリーヴェを止めるのは俺でも困難だ。
一体どうすればいいのか。
「リーヴェ、強くなったんだよ! これで良いんだよね……!」
いよいよ、リーヴェの攻撃に対処しきれなくなってくる。
その斬撃の速度は目で追うのがやっとで、完全には避けきれない。
防御魔法によってなんとか軽減はしているものの、俺の身体にはいくつもの切り傷ができていた。
このままでは、まずい。
「どうしたのお兄ちゃん? いくら雑魚でもどうして何もしてこないの?」
リーヴェが攻撃を繰り出しながら無邪気に話しかけてくる。
「……俺は大人だ! 子供に手をあげられるはずがないだろッ! それになにより、大事なリーヴェを攻撃なんてできるものかッ!」
そのとき、リーヴェの攻撃の手が止んだ。
「……だい……じ……?」
その場に呆然とリーヴェが立ち尽くす。
「……あれ……リーヴェ……なんで……」
今だ!
俺は、その隙にリーヴェの剣を思いっきり蹴り飛ばした。
カーンと剣がリーヴェの手から飛び出し、くるくると回って地面に刺さる。
その瞬間、俺を謎の脱力感が襲った。
しかし、まずはリーヴェの状態を確認するのが先だ。
「大丈夫か?」
「ありがとうお兄ちゃん…………リーヴェ……こんなことをしたかったわけじゃなかったのに……どうして……」
リーヴェは涙を流していた。
「あの剣のせいか? もとに戻ったのか……?」
「リーヴェ、剣を渡された途端、これが正しいことだと思うようになって……何か違うような気もしていたけど……どうしても抗えなくて……」
震えるリーヴェを抱き寄せて頭を撫でる。
「もう大丈夫だ」
「うう……お兄ちゃん……」
なんにしても、リーヴェが無事で良かった。
とにかく、剣を回収しなくては……
その時だった。
「ククク……ご苦労さま」
「誰だ!?」
俺たちのそばで声がした。
リーヴェと俺が同時に声の方へと振り向くと、黒尽くめの男が地面に刺さった剣に手をかけようとしていた。
「まさか強化された勇者と対等に戦う人物が居たとは驚きだが、俺が倒してしまえば結果は変わらん」
男が勢いよく地面に刺さった剣を抜いた。
「……実に気分が良い。さすがは魔剣ティルフィングだ」
男は剣を逆手に持ち変えると「フンッ!」という掛け声とともに剣先を地面に突き刺した。
その瞬間、男を中心に衝撃波が放たれる。
俺はとっさに防御魔法を使おうとしたのだが、そこで異変に気づいた。
俺の力を出すことが出来ない……!
そのまま衝撃波によってリーヴェとともにぶっ飛ばされた俺は、リーヴェをかばうように後方の家の壁に叩きつけられた。
さらに跳んできた瓦礫によって脚を負傷してしまう。
「ぐぁっ……」
「お兄ちゃん!?」
「おや? まさか、時間制限のある才能かなにかだったのか? 先程の戦いぶりからすれば、あの程度の小手調べでダメージを負うとは思えないが」
男は突き刺した剣を引き抜いてゆっくりと歩いてくる。
「せっかくだ。死にゆくお前たちにこの魔剣の力を見せてやろう」
そう言って男は魔剣を横へと振り抜く。
その剣からはリーヴェが振るっていたときと同じように魔力の斬撃が出る。
ズガガガガガ!!と大きな音が鳴り響き、そして、その方向にあった家が一気に3軒ほど崩壊した。
リーヴェの使っていたときの斬撃と比べ、飛躍的に強力になっていた。
「この魔剣ティルフィングは持ち主の才能を奪う剣、使用者の心を汚染し、使用者がこの剣を手放した時にその者の才能を奪う文字通りの魔剣だ」
「なっ!?」
使用者の才能を奪う……!?
そんな剣が存在していたのか!?
「長らく呪いの剣とされ歴史の闇に消えたこの剣は、これまでに幾度となく使用者の才能を奪ってきた。そのたびに切れ味はより鋭く、含む魔力はより強大になっている。そして今、最強の才能である【勇者】を吸収したことにより、この剣は遥かな高みへとたどり着いた……!」
俺はすべてを理解した。
俺の強さはリーヴェが【勇者】であることによって保たれていた。
リーヴェが【勇者】の才能を奪われてしまった今、俺は一般人の10倍の強さを持っているだけに過ぎない。
それでも十分強いのかも知れないが、この戦いにおいては絶望的だ。
男が今度は逆方向に斬撃を振るう。
またも、家が3軒まとめて破壊されていった。
「加えて、俺の才能は【ウェポンマスター】だ。あらゆる武器を使いこなせるこの才能は、魔剣ティルフィングの洗脳を無効化し、100%以上の力を引き出すことができる……! まさに今、この俺カイエンは史上最強となったのだ」
ククククク……アーハッハッハッハ!!!と、カイエンと名乗った男が高笑いした。
「一体、何が目的なんだ……!」
「……ロナリア・カヴェンツェラ」
「……!」
俺はその名に聞き覚えがあった。
ロナリア・カヴェンツェラとは人の名前ではない。
世界の終焉を崇める危険思想どもの集まった秘密結社だ……!
所詮は噂だと思っていたが、まさか本当に存在していたのか!?
「世界の終焉こそが美徳、この力はすべてを滅ぼすにふさわしい! さて、そろそろこの剣の力も堪能したし、貴様らを殺すとしよう……!」
男は剣を構えてゆっくりと歩いてきた。
いつでもお前らを殺せる……そう言わんばかりの余裕の歩みだった。
俺はリーヴェの耳元で囁く。
「リーヴェ、お前だけは逃げるんだ。無理かもしれないが、俺が時間を稼ぐ」
「そんな! 嫌だよ!」
「ダメだ。行くんだリーヴェ……! 走れ!」
俺はリーヴェを突き放して走らせようとする。
「無駄だ。まずはもはや役に立たぬ勇者より、お前から殺す」
男がゆったりと地面に向かって剣を振るった。
お遊びのようなその一撃ではあったが、そこから放たれた斬撃は地を這いながらこちらへと向かってくる。
俺は逃げようとしたのだが、脚がズキリと痛んで膝をついてしまう。
クソッ……!ここまでか!
頼むリーヴェ、お前だけでも逃げてくれ……!
その時だった。
「お兄ちゃんをリーヴェが守るんだからァァッッッ!!」
リーヴェがその斬撃へと走っていくではないか!
「やめろッ! リーヴェッ!」
リーヴェは身を挺して 斬撃を受けようというのだ。
しかし、リーヴェはすでに【勇者】ではない。
そんなことをしたら、死んでしまう……!
「やめろぉぉ!!!」
「お兄ちゃんを助けられないならリーヴェは【勇者】なんて要らない!! 勇者だろうが、そうじゃなかろうが、リーヴェはリーヴェのやりたいようにやるだけ……!!!」
地を這う斬撃がリーヴェの元へと走っていく。
もはや、この距離では避けようがない。
誰でもいい、リーヴェを助けてくれ……!
そんな俺の思いとは裏腹に……
――ついに、斬撃がリーヴェへと達してしまった。
少々短いですが、完結までもう少しです!




