「お兄ちゃんなんて、死んじゃえ!」
それから魔王と話し合ったりなどして数日が経過した。
諸々を終えてようやくリーヴェの元に戻ってやれると街に戻った俺を待ち受けていたのは、衝撃的な知らせだった。
「リーヴェが行方不明って……本当なのか?」
俺はそれを伝えてくれた伝令係に聞き返す。
「はい、勇者パーティーの一件は報告に上がっていましたので、リーヴェさんとの接触を試みているのですが、ここ数日帰った形跡などもありません」
「そうか……ありがとう」
勇者パーティーには定期的に成果の報告の義務がある。
そのため、王からの命令などは伝令係を通じて行われていたのだが、どうもリーヴェがここ数日行方不明ということだった。
心配だ……
まさか、リーヴェの身になにかあったのでは。
そして、その予感はその日の夜に最悪の形で当たることとなってしまう。
*
「大変だ! 街が燃えているぞ!!」
寝ていた俺に、そんな声が聞こえた。
慌てて外に出た俺は、近くで最も高い建物から周囲を見渡す。
「これは何の騒ぎなんだ……!?」
城下町であるこの街の一画から火の手が上がっていた。
いくつかの建物が倒壊している様子もある。
今はおそらく真夜中だが、それでも立ち上る煙が確認できた。
俺は胸騒ぎを覚え、その一画へと急いで向かうことにした。
ある程度その区画へと近づくと、異変が現在進行系で起こっていることを理解できた。
定期的にガラガラと何かが崩れる音が鳴っているのだ。
これは建物が倒壊していく音に違いない。
つまり、何者かが建物を破壊しているということだ。
俺はその音がする方向へと進行方向を変える。
一体、この街に何が起こっているというのか。
*
家が倒壊していく音を追って、俺はついにその原因へとたどり着く。
燃え盛る炎の中、先程までは家だった瓦礫の中心で立っていた人影。
それは……
「リーヴェ……?」
それは、禍々しい剣を手にしたリーヴェであった。
「お兄ちゃん?」
いつもと変わらぬような声色でリーヴェが話しかけてくる。
「何をしてるんだ!」
「なにって、リーヴェのやらないといけないことだよ? そんなことも分からないの? まぁ……ざこーいお兄ちゃんじゃ分からないかもしれないけど」
そう言うと、リーヴェが右手に持った剣を振った。
その剣から放たれた魔力の斬撃は、近くにあった家の壁を破壊した。
「おい! やめろ!!」
「やめさせたいなら、止めてみればいいじゃん。無理だと思うけどねー」
リーヴェはさらに剣を振り回す。
剣が振られるたびに放たれる斬撃は、次々に周囲の家を破壊していく。
さすがに俺もこれは看過することが出来ない。
「どうしてこんなことするんだ!」
地を蹴り、リーヴェの持つ剣を取り上げようと距離を詰める。
俺は才能によりリーヴェより遥かに強い。
リーヴェを無力化するのは簡単……そのはずだった。
しかし……
「近づかないでよねっ」
リーヴェが想像を超える早さで剣を振るった。
俺に向かってくる魔力の斬撃……それをかろうじて俺は防御する。
おかしい……この威力は明らかにリーヴェの力を超えている。
魔力の斬撃を受けた俺の手には、浅いとはいえ切り傷ができていた。
防御魔法はかけていたはずだ。
相手がリーヴェだと侮っていた部分はあるが、それにしても強すぎる。
「リーヴェ、一体どうしたって言うんだ。話を聞いてくれ」
「必死すぎてダサ~い! お兄ちゃんみたいなよわよわで取り柄のない人と話す時間なんてもったいないよ」
リーヴェは聞く耳を持ってくれない。
明らかにこれはおかしい。
リーヴェは確かにメスガキだが、こんなことをする子ではない。
……だが、何にしても早くリーヴェのことを止めなくては。
リーヴェの元に駆け寄り、まずは武器を取り上げることを目標とする。
「近寄らないでって言ってるの!」
やはり想像以上の速度で斬撃を飛ばしてくるリーヴェ。
しかし、心構えができていれば避けられない範囲ではない。
迫りくる斬撃を3回かわし、俺はリーヴェに接近することに成功した。
さらに、ここで俺は魔法を使ってリーヴェの後方で小規模な爆発を起こす。
その爆発に、リーヴェが後方へと気を取られ振り返る。
さらに、その隙が出来た瞬間、俺はリーヴェの足元が少し崩れるように爆発魔法を続けて放った。
突然のことにリーヴェは体勢を崩す。
この隙は好機だ。
俺は一気に距離を詰めた。
「まずは剣っ!」
俺はリーヴェの持つ見慣れない剣にターゲットをあわせる。
リーヴェは体勢を崩している。
今剣を狙えば確実に叩き落とせる。
そう考えたのだが……
ブンッ!
リーヴェがあり得ない体勢から剣を振るった。
俺はとっさにガードしてバックステップを行ったが、防御魔法の強度が足らずに腕に切り傷を負ってしまう。
あり得ない。
リーヴェは今、完全に体勢を崩していた。
それなのに、あれだけの速度が剣を触れるはずがなかった。
加えて俺の防御魔法を貫通するほどの威力。
絶対にリーヴェの力だけではあり得ない。
今の感じは、どちらかと言えば「剣が勝手に俺を斬りつけた」そういう印象すら受けた。
「キャハハ! 本当にざこ~い! 本当に止める気あるの~?」
「リーヴェ、やめてくれ。それに、その力は一体なんなんだ!」
「リーヴェは勇者なんだから強いのは当たり前でしょ? あ、でも、この貰った剣は使い勝手がいいかも!」
リーヴェが手に持った禍々しい剣を見せつけるように構える。
……やはり、あの剣が原因だと結論づけるしかない。
魔力の斬撃が飛ぶ時点で普通の剣ではないのだ。
あの剣が原因でリーヴェがああなっていると考えるのが自然だった。
であれば、俺がやるべきことはただ一つ。
「リーヴェ、その剣から手を離せ!」
「弱いくせにリーヴェに命令しないでよっ!」
「リーヴェ、今やっていることがおかしいって気づかないのか!?」
「なんで、正しいことをしているのに! リーヴェは強いのに! がんばっているのに! 止めようとするの!? お兄ちゃんなんて嫌い!」
リーヴェが剣を構えた。
こちらを睨む視線からは明確な敵意を感じる。
……リーヴェから酷いことを言われるのは慣れていたが、ここまで明確に敵意をあらわにされたのは初めてではないかと思う。
その視線に、思わず俺の心は削られた。
しかし、そんな心のダメージを気にしている暇はなかった。
リーヴェがこちらに向かって剣を振るってくる。
連続で振るわれた剣からは魔力の斬撃が何本も発射された。
俺は、その魔力の斬撃を避けたが、避け終わってリーヴェの居た場所を見るとリーヴェが居なくなっている。
一体どこに……!?
危険を感じてバックステップを行うと、先程まで俺が居た場所が粉々に砕けて地面に穴ができた。
その中心にはリーヴェ……上空から剣を地面に叩きつけたのだ。
「殺す気か!?」
「リーヴェを止めようとするとお兄ちゃんは、リーヴェの敵だよ」
う……心へのダメージが大きい。
リーヴェが剣先をこちらに向けて構えた。
「お兄ちゃんなんて、死んじゃえ!」
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