禁忌領の少女の過去
少女は名をメイズと言った。
メイズは今よりも遥か昔、禁忌領が禁忌領と呼ばれるよりもさらに昔の人間であった。
当時、禁忌領は今のように特殊な土地ではなく普通に人間の国があり、そこでは生活水準こそ違えど今と同じように人々が暮らしていた。
人々は平和に暮らしていたが、人間がだんだん増えてくると問題となったのはやはり土地だ。
大陸という限られた土地で徐々に土地不足は争いへと発展していく。
この頃は魔族もおらず、人間同士で戦争を続けていた。
人間同士の戦争で鍵となったのは、人々が持つ才能の存在だ。
戦いの才能を持つ人間は戦争に駆り出され、一騎当千の活躍を見せて英雄になった者も現れ始める。
戦国時代と形容しても良いような争いの時代だ。
そんな時代に生まれたのがメイズだ。
どの時代にもイレギュラーな才能を持った者がいる。
世界を変える絶大な力を持つ才能。
今の時代ではそれは勇者リーヴェであるかもしれないが、この時代においてはメイズだったと断言してもいいだろう。
今で言う禁忌領の場所にあった国で生まれたメイズが持っていた才能は【創生魔法】であった。
その効果は「創生魔法を使用でき、魔力が強化され、魔力が成長しやすい」というものである。
創生魔法はメイズだけが使える特殊な魔法で、命を創り操作することのできる魔法であった。
当然、争いの世においてこのような特殊な才能を持つ者は重宝される。
メイズは創生魔法を使って戦いの駒を作り出すこととなった。
メイズが創生魔法によって作り上げた生物たちは魔法が効きづらく、戦争においては大きな驚異となる。
メイズはまだ幼かったが、幼いがゆえに言われるがままに創生魔法を使って戦争の駒を生み出していった。
メイズの力を使って周辺諸国に侵略していったその国は、やがて大陸全土の統一を果たしてしまった。
それだけメイズの力はずば抜けて強かったのである。
しかし、このようなイレギュラーな才能を持つ者が生まれるのが世の常であるならば、そのような才能を持つ者が排斥されるのも世の常だ。
戦争が終わり国家としての安寧を築いた今、メイズの力は不要であった。
メイズの作り出す生命は魔力によって作られる結晶のような生命体でしかない。
メイズが操作しなければ思うようには動かず、利用価値も乏しかった。
国に不安要素を抱えたままにしておくのと幼いメイズを排除するのでは、後者の方が国としても簡単だと考えた。
一人で世界統一を果たしたと言っても良い英雄メイズは、戦争の終わりとともに一人で国を脅かすかもしれない危険人物として扱われることになってしまったというわけだ。
しかし、国にとって計算外だったのは、メイズが創生魔法以外の魔法も十分に使いこなせたということだった。
メイズの元には多くの刺客が現れることとなったのだが、その誰もがメイズに返り討ちにされてしまったのだ。
いよいよなりふり構わなくなった国はメイズを大罪人に仕立て上げてメイズを殺そうとしたが、メイズは迫りくるすべての敵を排除してしまった。
この頃のメイズは創生魔法によるものなのか、それとも体内の魔力が濃すぎるが故か、自身の身体の一部に結晶のようなものが発現していた。
その見た目も相まって、化け物だと呼ばれてさらにメイズの命を狙う動きが強まっていく。
こうして人間不信となったメイズは……向かい来る敵を潰し、城を潰し……周囲のすべてを破壊していった。
これが禁忌領の原型である。
メイズは誰とも会おうとせず、その国の最初の領土であった土地を自分の土地として侵入者を排除し続けた。
結果として、その土地は当時は禁忌領と呼ばれる前ではあったが、「何人たりとも入ってはいけない土地」として認識されることとなる。
その後、メイズは孤独の中で創生魔法の研究を重ねて生き続けた。
創生魔法は命を創ったり操作することのできる魔法だ。
メイズの姿かたちは数千という長い年月を経た今でも創生魔法によって変わることなく、禁忌領で他者を拒み続けてきたのである。
*
メイズの話を聞いた俺は、やはりリーヴェと重なるところがあると感じていた。
ずば抜けた【勇者】の才能を持つリーヴェ、【創生魔法】の才能を持つメイズ……
もしも魔族という人類の敵が滅びたのであれば、リーヴェの力は戦争に使われていたかも知れない。
メイズの話は、リーヴェに起こり得る未来の話と言っても良かった。
「そうか……大変だったんだな……」
「同情などいらない。本当にわたしを知らないというのなら、おまえは一体なにをしにきた?」
「それはだな……」
俺はメイズに事情を話すことにした。
魔族のことやリーヴェのことを伝える。
驚くべきことに、メイズは魔族についてすら知らなかった。
魔族が生まれるよりももっと前から禁忌領に住んでいるらしい。
「たまに変な生き物が来たこともあったが、あれが魔族か……?」などとつぶやいていた。
「俺は、リーヴェが平穏に暮らせるようにしたい、ただそれだけでここに来た。他に意図はないし、ましてや禁忌領に人が居たことなど知らなかった」
「そう……リーヴェ……ね……」
メイズは俯いて、何かを考えているようだった。
「もし、あなたの目的を果たしたいのならわたしを殺せばいい。おまえが魔獣と呼ぶここの生き物は、すべてわたしの創生魔法によって作られている。わたしが死ねば魔獣たちも死ぬだろう」
「……そうか、それなら仕方がない」
俺はメイズに背を向ける。
「……? わたしを殺せば望み通りこの土地は手に入るんだぞ?」
「……罪のない他人の命を奪うことをリーヴェが喜んでくれるとは思えない。だから、禁忌領は諦めよう。それに、俺は君を傷つける気はない」
メイズという少女は被害者に過ぎない。
メイズを殺さないといけないというのなら、禁忌領の件は諦める。
それが俺の結論だ。
リーヴェの平穏を守るには、また別の手段を探せば良い。
「……待って」
メイズに呼び止められ、振り返る。
「なんだ?」
「今のは嘘。わたしの魔法一つですべての魔獣は活動を停止する」
「本当か!?」
「わたしは……わたしと同じような者は生まれてほしくない。おまえのためではないが、リーヴェという娘のために力を貸そう」
きっと、メイズは元々心優しい性格なのだろう。
過去の経験から周囲の人間をすべて敵だと思っているだけだ。
「そうか……ありがとう、メイズ」
「だけど、一つ条件がある」
「なんだ?」
「わたしが平穏に暮らせる場所を提供してほしい。わたしは、創生魔法やこの見た目のせいで人間には受け入れてもらえない」
メイズが自身の身体の一部を覆う結晶を手で指す。
「そうでなければ、わたしはこの土地を渡すことが出来ない……」
「ふむ……」
元々、禁忌領が住める土地になった場合には魔族に移住して貰う予定だった。
それならば、メイズには魔族と一緒に暮らして貰えば良いのではないか。
魔族であれば外見はさほど問題にならない。
加えて、魔王の統治の元、魔族はまとまって動いているように見えた。
俺が魔王城に行っても、魔王の命令が行き届いているからか急に襲われるということもない。
魔王がメイズを受け入れるのであれば問題は起こらないだろう。
「それなら、俺にアテがある」
「分かった。そういうことなら、おまえを……少しは信じてみよう……」
メイズはそう言うと、その場を去っていく。
「わたしは魔獣たちを止めるために準備をする。一週間後にまた来て」
「ありがとう、メイズ」
メイズを見送った俺は、禁忌領を後にすることにした。
これで、リーヴェの平穏にまた一歩近づいた。
…………
……
去っていくメイズは誰にも聞こえないような声で小さくつぶやいた。
「もし、わたしの側にもおまえのような人間が居たら、こうならないですんだのだろうか……」
少女は長い年月の果てに訪れた変化に、希望と不安を抱いて歩いていく。
小説って書くの大変ですね。
強くなれる理由を知りました。




