大魔獣ダハーカと勇者の10倍の力を持つアルム
禁忌領の謎の少女が使った新たな魔法、それは魔獣たちを生み出した魔法と同じではあったが、今回はその規模が違った。
「これは……ドラゴンなのか!?」
俺の前に踏み出された魔獣は3つの首を持つ巨竜であった。
そのサイズは魔獣の王よりもさらに大きい。
やはり全身が結晶で作られたそのドラゴンは、これまでの結晶の魔獣と色が少し異なっており、あからさまに格の違う雰囲気を漂わせていた。
「あのときの戦いでもすべてを破壊しつくしたダハーカ。おまえがいくら強かろうとわたしはその上を行く。決してわたしの平穏を邪魔させない」
ダハーカと呼ばれたその魔獣は強大な圧力を放ちながら3つの首のそれぞれでこちらを睨みつけている。
まぁ、眼すらも結晶でできているために、本当に睨んでいるかはわからないのだが。
「コール・サンダー!」
少女のその魔法を口火にさらなる戦闘が幕を開けた。
まず少女の魔法によって落ちてきた雷を魔法の相殺によって弾く。
防御魔法を使ってもよいのだが、適切に相殺できるだけの技量があるのであれば攻撃魔法同士で相殺したほうが消耗は少ない。
俺の場合は練度としてはそこまでだが、勇者の10倍というあらゆる身体能力の強化によって強引に攻撃魔法をあわせていた。
間髪入れずにダハーカによる3つの首を使った噛みつきが来る。
結晶でできたその口に並んだ牙は、すべてを噛み砕く迫力を持っていた。
果たして俺はこのダハーカとやらも今までの魔獣と同じように砕けるだろうか?
俺はまずはそれができるか試すことにする。
「これでどうだっ」
迫りくる首を狼の魔獣を倒したときと同じように下からアッパーで殴りつける。
様子見で全力ではないとはいえ、それなりに力を込めた一撃……
「グォウゥオォォ!!!」
殴られた衝撃でダハーカの首が吹っ飛んで上を向いた。
しかし、破壊には至らない。
それどころか、残りの首は立て続けに攻撃を仕掛けてきていた。
迫りくる牙をステップでかわし、2回目の攻撃を避けた瞬間にカウンターの蹴りを入れることにした。
「これならっ!」
蹴りはダハーカの右首の側面を捉えた。
魔獣の王の腕すら破壊した一撃……
しかし、ダハーカは衝撃こそ受けて若干後ろに下がったものの、砕けることなく耐えていた。
「これは凄まじい強度だな……」
俺が本気で攻撃して耐える敵が居るとは驚いた。
これだけの魔獣を生み出せるとは、一体この少女は何者なのか。
俺は一発でダメなら何発でもとダハーカに攻撃しようとするが、少女が放った複数の火球にそれを防がれる。
これは厄介だ。
前衛となるダハーカと後衛となる少女の組み合わせは、隙がない。
先程の人型魔獣を召喚していたときに気づいたのだが、この魔獣というのは魔法に対する耐性が凄まじく高いのだ。
少女が容赦なく魔法を放っているのに魔獣たちにダメージが入っていない理由はおそらくはそれだ。
となると、物理によって魔獣を破壊しないといけないわけだが、それを少女が咎めてくる。
一方で先に少女を狙おうにもダハーカがそれを咎めてくる。
迫りくるダハーカの噛みつき、そして数々の攻撃魔法。
だが、それでも俺はなんとか相手の攻撃を受け続け、こちらの攻撃をダハーカに入れ続けた。
しばらくそれを続けていると、ダハーカを後方へ蹴り飛ばしたときに少女の姿が見えた。
少女は目が合うと、少女が口を開く。
「そこまでして……おまえもわたしを殺そうとするのか……!」
その少女の表情を、俺は知っていた。
……あれは、幼い頃のいじめられていたリーヴェに似ている。
いや、少女はあのときのリーヴェよりも辛く悲しそうな顔をしていた。
他者から不当に弾圧され、その理不尽に立ち向かうしかない……少女はそういった何かを抱えているに違いないと感じた。
俺は少女に声をかける。
「俺は君を殺すつもりはない」
返答の代わりに攻撃魔法が返ってくる。
俺と会話する気はないようだ。
あくまで俺を排除しようということらしい。
だが、少女とリーヴェを重ねてしまったせいか、俺は少女の抱える事情が気になって仕方がなかった。
俺の目的はあくまでリーヴェの平穏を守ること。
それは揺るぎない。
しかし、さらに元を辿れば「子供を導いてやるのが大人の役目だ」という俺の考えからそのように行動しているのだ。
もしも、目の前の少女が助けを求めているのであれば、それに手を差し伸べるのが俺の役目だと感じた。
少女がリーヴェと同じくらいの年頃に見えたのも、そう感じた理由かもしれない。
……俺は集中力を高める。
俺はこれまで勇者の10倍の力であると言ってきたし、それは事実なのだが、一つだけちょっとした嘘をついていた。
それは「俺は勇者の10倍の力を出していない」ということである。
普段、勇者の10倍という桁違いの力を出す必要がない俺は、常に勇者の5倍ほどの力でキープしてきたのだ。
また、必要ないというのもあるが、一番の理由としてはこれ以上の力を出すと身体に負荷がかかるというものがある。
以前試しに本当に全力を出して動いてみたことがあったのだが、そのときは翌日全身の痛みによって寝込むことになってしまった。
そのため、勇者の5倍程度の力を全力ということにしていたのだ。
……ここからの俺は本当の意味で全力を出す。
「行くぞッ!」
迫りくるダハーカの牙をこれまでにない速度でかいくぐり、俺は拳に全霊の力を込める。
狙うはダハーカの胴体だ。
「くらえェッ!!」
俺は拳をダハーカの胴体に向かって突き出した。
これが俺の正真正銘の全力、勇者の10倍の力だ……!
「ギッ」
その一撃に、ダハーカは断末魔すら上げることなく破壊された。
胴体は砕け、土台を失った3本の首が次々に地に落ちていく。
「馬鹿な……!」
崩れたダハーカの奥に立つ少女は、信じられないという顔をしていた。
しかし、それでもすぐに魔法を放ってきた。
「ウォーターボルト!」
それを俺は、拳で弾き飛ばした。
全力を使った防御魔法で全身を保護し、強引に魔法をぶち抜いたのだ。
「素手で魔法を……!?」
少女は焦ったのか次々に魔法を放ってきたが、それをすべて素手で撃ち落とす。
殺意のこもった攻撃魔法をすべてを俺は弾き続け……
……そして、ついには少女が片膝をついた。
「はぁ……はぁ……もはや魔力切れか……殺せ……!」
「殺すつもりはないと言っているだろう。俺は本当に調査に来ただけなんだ。まず君のことを教えてほしい」
「……本当にわたしを狙ってきたわけではないと……そういうのか?」
「そうだ」
「……仕方ない……」
そう言うと、少女は自身の過去について話し始めた。
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