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魔王城はパンケーキ屋ではありません

「盟友~! また来たのかい? いつでもウェルカムだよ~」


 俺はエリスの元を訪ねていた。


「禁忌領って知ってるだろ? そこの情報が欲しくて」


 エリスは基本的に物知りだ。

 才能のおかげもあるだろうが、決してそれだけではないだろう。

 謎は多いのだが、エリスに聞けば大抵の情報を集めてくれる。


 少なくとも、禁忌領のこと自体を知らなくても、どこに行けばその情報が手に入るのかは教えてくれると踏んでエリスの元に来たのだ。


「禁忌領? まさか、盟友は禁忌領に手を出そうとしているのかい?」

「世界の救世主っていうなら、それくらいはできるかなと思ってな」

「もちろん、もちろん。意外だったけど、盟友に不可能はないとも! とはいえ……禁忌領の情報は如何せん資料が少なくてね~」


 エリスは両の手を上げて困ったジェスチャーを行う。


「そうか、それじゃあ直接行って確かめるか……」

「待ちたまえ。資料が少ないとは言ったが、用意できないこともない」

「さすがはエリス」

「ふふん、すごいだろう? だけど、その代わり一つお願いがあってね」

「なんだ?」

「実は、近くにあるスイーツ屋さんをすべて回りきってしまったのだよ。これは由々しき事態だ。一緒に新しいスイーツ探しを手伝ってほしいのだが」

「……」


 エリスはすごい有能なのだが、かなりのスイーツ好きだ。

 本人曰く「糖分がないと力が出ないよ」とのこと。

 この間はクレープを要求されたことからもそれが分かるだろう。


 しかし……スイーツ探しなんて……あ、そうだ。


「それなら、実は良いのを知っているぞ」

「なんだって!? 一体なんだい?」

「パンケーキだ」

「パンケーキ? パンケーキならよく食べるが、どんなパンケーキなんだい?」

「んー……そうだな……王城で王が食べるために作られているあまあまパンケーキだ。本来なら絶対に入手できない代物だが、俺ならできる」


 魔王城で魔王が食べるパンケーキだから間違っていない表現のはずだ。


「おおおお!! 世界の救世主が救いの手を差し伸べてくれた!」


 エリスは目を輝かせながら聞いてくる。

 今にもキラキラという音が聞こえそうなほどだ。


 いつも変なテンションの彼女だが、今に関しては平時の5倍くらいテンションが高い気がする。


「一体、それはいつ手に入るんだい?」

「そうだな、ちょっと待っていてくれ」


 そう言うと、俺はワープを発動した。


*


「パンケーキー♪パンケーキー♪」


 魔王が鼻歌を歌いながら廊下を歩いている。


「ちょっといいか?」

「なんじゃ!? わしは今パンケーキで忙し……ってお主か!」

「実はパンケーキのことで相談が」

「パンケーキのことで相談!? 一体何ごとじゃ!?」


 アルムは魔王に事情を話す。

 かなり恐る恐ると言った表情の魔王だったが、話を聞くとほっとした顔をしていた。


「なんじゃ、そのようなことじゃったか。それくらいであれば構わぬ。うちのシェフに頼めばパンケーキをいつでも作ってくれるからのう!」


 魔王とともに食堂へと向かうアルム。

 食事は部屋まで持ってきてもらうそうなのだが、おやつに関してはできたてのパンケーキを食べるために魔王自ら食堂に向かうそうだ。


 よほどパンケーキが好きなのだろう。


 魔王としてどうなのかという気もするが、別に王としての責務を果たしているのであればパンケーキが好きなことくらい何だというのだ。

 まぁ……正直魔王が責務を果たしているのかどうかは俺には知る由もないが、見たところ尊敬もされているようだし有能なのではないかという気はする。


「魔王様、お待ちしておりました。……おや、そちらの方は以前おっしゃっていた……?」

「そうじゃ、実は今日はパンケーキを持ち帰りたいらしくての」

「パンケーキを、ですか?」

「スイーツが大好きな友人が居てな。ぜひパンケーキが欲しいんだ」

「そうでございましたか。それでは、少々お待ちください」


 シェフのような格好をした魔族が厨房の奥へと消えていく。

 格好こそシェフのようであったが、見た目はトカゲ人間といった感じであった。

 とはいえ、言葉遣いも丁寧だし全く不快感はない。


 しばらく待つと、シェフは箱を持ってきた。


「こちらにパンケーキを入れてあります。ご賞味ください」

「ありがとう。お礼は……そうだな、禁忌領で良さそうな食材でも探してみるとするよ」

「ははは、ご冗談を」

「それじゃあ、失礼する」


 そう言ってアルムはワープを使って消えてしまった。


 ……


 残された魔王が呟く。


「冗談ではないかもしれぬぞ……」

「……そんなことありませんよね?」

「いや、あやつならやるかもしれん……」


 魔王は腕を組みながら起こり得そうな未来を想像していた。

 そして、用意されていたパンケーキを食べ始める。


「ん~~~~さいっこうじゃな! もうあやつに関しては考えるだけ無駄じゃ! 今はパンケーキを楽しむのが一番賢い選択というもの!!」


*


「ほら、これだ」


 俺はエリスに箱を差し出す。


「早かったね~盟友、待ちきれなかったよ! おお、なんともいい香りじゃないか! 甘そうな匂いがとても素晴らしいね!」


 エリスは早速箱を開ける。


「ほう、これは上質なパンケーキだね……! 見ただけで分かるよ」


 エリスは箱をテーブルに置くと、どこかからフォークを取り出してきた。

 そして、箱から直接パンケーキを食べ始める。


 ……多分、皿に出すのは面倒なのだろう。

 そもそも、この前片付けたはずなのにすでに散らかっているし、あのときに皿を見た覚えがないから、もしかしたら皿などないのかもしれない。


「んんんんんん!!!! 幸福だね!!!! 今まで食べたパンケーキの中でもズバ抜けて甘くて美味しい一品だよ~!」


 エリスは美味しそうにパンケーキを食べ続け、すぐに食べきってしまった。


「こんな美味しいパンケーキがあったなんてね~。王が食べるためのパンケーキということは、君の国のパンケーキかい? それにしても、どうやって?」

「いや、それは魔族領のパンケーキだぞ」

「魔族領!? このパンケーキが!?」

「魔王がパンケーキを好きらしくてな」

「むむむ……」


 エリスが真面目な顔をする。


「すぐに勇者に魔王を倒すのをやめるように言ってくれないか。魔王と仲良くできる気がするんだ」


 エリスの目は、それはもう大真面目だった。

 これまで見た中でで一番と言ってもいいくらいだ。


「ああ、安心してくれ。魔族と人間の戦争を終わらせられないか考えてる。そのために、禁忌領という土地があれば良いんじゃないかと思ってな」

「そういうことだったのか~。このパンケーキが失われるのは困るからねぇ……。全力で禁忌領の情報を集めさせてもらうよ! 疲れるからあまりやりたくなかったけど、【占い師】の力も使うことにするかな」

「頼んだぞ」

「また3日後に来てくれたまえ。できれば、パンケーキも持ってきてくれるとありがたいよ」


 俺はエリスの家を後にする。


 エリスは変なやつだが有能な人物だ。

 きっと3日後には禁忌領の情報を集めきってくれるだろう。


評価してくれてありがとうございます!!

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