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メスガキ勇者に追放されたがこれは計画通りだ

「ざぁ~こ! 使えないお兄ちゃんなんか勇者パーティーに要らないから!」


 メスガキ勇者リーヴェからの叱責が俺に飛んでくる。


 俺が所属しているのは勇者パーティーだ。


 メスガキ勇者 リーヴェ

 要塞の如き戦士、無骨な大男バルボザ

 不可視の暗殺者、冷酷な美女エルゼム

 冴えない荷物持ち、ただのお兄さんアルム


 人類の宿敵たる魔王を倒すために結成されたはずの勇者パーティーで、明らかに浮いている荷物持ちこそが俺である。

 本当は別の人物があてがわれる予定だったが、リーヴェの希望で俺が入れられることになったらしい。

 なぜかはわからないが、そうなってしまったものは仕方ない。

 事実として明らかに俺だけ戦力として劣っている。


 そんなわけで、リーヴェの俺に対する罵倒は日常茶飯事というわけだ。


 ……とはいえ所詮リーヴェはお子様である。

 実際子供だし、生まれつきの白髪をまとめたツインテールも子供っぽい。


 だから、いつもならこのようなことを言われても子供の戯言だと言葉通り受け止めたりはしないのだが、今回は事情が違ったのでこのように返す。


「そうか……じゃあ、俺は勇者パーティーを抜けるよ……」

「えっ!?」


 俺は荷物をまとめ始める。

 すると、なぜかリーヴェが焦った口調で話しかけてくる。


「冗談だよね?」

「冗談ではないが」


 一層リーヴェが慌て始める。

 一体どうしたというのか。


「お、お兄ちゃんは確かにざこだけど、荷物持ちも必要だよ!」

「お前には勇者に付随するアイテムボックスのスキルがあるだろう」

「で、でも、アイテムの整理はアイテムボックスじゃできないから!」

「アイテムの整理くらいは俺じゃなくてもできるさ」


 俺は早々に荷物をまとめ終えると、パーティーメンバーであるバルボザとエルゼムに声をかけてからその場を去る。


 こうして俺は勇者パーティーから追放(?)されたのだった。


 ……


 ……残されたリーヴェはひとり呟く。


「えっ……本当にパーティーから抜けちゃうの? そんなつもりじゃ……」


*


 さて、状況を説明しよう。

 俺は勇者パーティーから追放された。

 しかし、これはある程度俺の意思によるものだ。


 実は、勇者パーティーの現状は芳しくない。

 その理由は、強大な力を持つ勇者をめぐって各勢力の水面下での動きが激化しているからだ。


 まず、大まかに分けて人類と魔族は長きに渡り戦争を続けていて、その力は拮抗している状況だ。

 人間は”才能”と呼ばれる素質を使い戦い、魔族は優れた肉体と魔力によって戦っていた。

 そこに生まれたのが勇者リーヴェ、あいつが目覚めた【勇者】という才能の力は凄まじく、その拮抗が崩れようとしている。


 当然、魔族のリーダーである魔王が黙っているはずもない。

 有事に備え擬態のできる魔族を人間界に送り込んでいた魔王は、勇者を暗殺すべく勇者パーティーに暗殺者を送り込むことに成功した。


 それが勇者パーティーの暗殺者エルゼムだ。

 暗殺者の才能を持つということにされているが、文字通り彼女は暗殺者なのである。

 バルボザの目も俺の目もないところではリーヴェを殺そうとするだろう。


 そして、問題はそれだけではない。

 もう一人の仲間であるバルボザには帝国の貴族の息がかかっている。

 帝国は、俺たちが所属する王国とはかつて敵対関係にあった国だ。


 帝国に限らずどの国も魔王の脅威は排除したいと考えているだろうが、同時に勇者の力を危険視している。

 魔王という脅威が去った後、勇者の力が何に使われるか……想像に難くない。

 だからこそ、バルボザも勇者が用済みとなれば容赦なくリーヴェを始末する。


 つまり、勇者パーティーにリーヴェの味方は俺しか居ないのである。

 そんな状況だと言うのに本当にリーヴェは気楽なものだ。

 リーヴェは大人を舐め腐ったような態度をしているが、実際はその大人たちに利用されているに過ぎない。


 ……とはいえ、子供のお守りをするのも大人の務めだ。

 いくらリーヴェが大人をコケにするメスガキだったとしても、勇者という力を持った子供だろうと……正しく導くのが本来の大人のあるべき姿のはず。

 それに、俺は今よりもっと幼い頃からリーヴェのことを見守ってきた。

 リーヴェを利用しようとする連中なんて許せるはずもない。


 だからこそ、俺は勇者パーティーを離脱したのである。

 この問題の根は深い。

 勇者パーティーに居ては元凶を断つのが難しい。

 つまり、自由に動けるようになった俺はこれからリーヴェの力を狙う魔王や帝国貴族にお灸を据えに行こうというわけだ。


 リーヴェを一人にしてしまうのは心苦しいが、仮にも勇者の力は本物だ。

 よほど不意を突かれなければリーヴェが遅れを取ることはない。

 それにエルゼムとバルボザはリーヴェの敵ではあるが、結託しているわけではないので互いに相手の目があるところでは動くことはできないはずだ。


「おそらく、俺が居なくても数週間程度ならリーヴェの身は安全なはずだ。その数週間の間に、俺が元凶を断ち切る」


 ……俺はただの荷物持ちだと思われていたようだが、それはバルボザとエルゼムに実力を悟られないために隠していたに過ぎない。


 誰にも言っていないが、俺は世界的にも大変めずらしい才能2つ持ち。

 加えて、その2つの才能は他に類を見ない貴重な才能である。

 両方ともに癖の強い才能ではあるが、この状況でなら勇者に匹敵する……いや、勇者すら越える力を発揮できるのが俺だ。


「さて、まずは魔王を”分からせ”に行くか」


みなさん評価してくれてありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定がひねっている。 [一言] 一話の段階では普通に面白そう。
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