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海洋恐怖症

作者: 光生
掲載日:2021/02/09

 「海洋恐怖症」

彼女の歩美から、その言葉を聞いたのは、およそ1年ほど前である。

海や湖が怖いという海洋恐怖症だが、底が見えない海の底、超巨大な生物の姿、人工物の沈没した姿など、怖いと思うのはそこまで重度ではない。

しかし歩美は今現在、海そのもの、なんなら水族館すら怖くて入らないまでになっている。

1年間かけてここまで育てたんだ。最後のトドメの壊し方はどうしようか。

海洋恐怖症の人が死にたくなる思いをして、自ら命を絶つ方法。

最終的に水槽の中に入れるとか、浴槽の底を真っ黒に塗り、湯船のお湯を青い色に変化させ、海の中にいるように感じさせるなど、あまり実践的ではないものしか出てこなかった。


「この辺にしておきますか」

声が聞こえたと思ったら、いきなり目を覆っていた機械を外された。

「最近は殺人方法を想像する際も、殺意を感じられなくなりました。これからもこの調子で頑張りましょう」

この実験を行うと、毎回VRゴーグルを外された後、現実を理解するのに少し時間がかかる。

ここは長野にある刑務所だ。

浮気が原因で口論になり、殺意を持って妻を殺し、終身刑となった私はとある実験に、減刑と引き換えで参加している。

仮想現実の世界で、たくさん人を殺すように仕向けられ、殺害方法を考える時や、衝動的な感情になった時に殺意など感情を感じなくなれば、人を殺さないのではないか?という実験だ。

現在は殺意も数値として測れる。

75以上の数値を出すと要注意である。

今回の私は11だったらしい。

「5098番は成功として、発表してもいいのでは」

確かに成功だと思う。


私はここにいる2人の研究者を、何も思わずに殺せるだろう。



刑務官が来たが、私は全くの無表情で2人の顔を踏み潰していた。

あぁ、殺意の次は何を消してもらおう。


―――――――――――――――――――――


 この仕事をしていて、一番大変なこと。

被験者がこの状況で、どんな殺しかを考えられる余地を持たせて実験を考えることである。


今回の被験者5098番に対し、前回も前々回も、殺すと決めてから殺害まで、一年近く期間を設け、条件や対象の状況を限定させている。

それでも5098番は、感情的に殺す殺意を持って計画を立てたりせず、しっかり殺意の低下を目に見える数値として結果を出している。


人を殺そうとする殺意を低下させ、感情をしっかりコントロールできるようにしてあげる。

この実験を行う前に、我々のチームが最終目標として目指しているゴールだが、我々の担当している5098番はとても良い結果だと思う。

やっと我々の研究が人を救える。


この実験を行うにあたり、我々全員、罪悪感なる感情を感じないように改良した。

仮想現実とはいえ、何回も被験者に人を殺させる訳だ。シナリオを作り、被験者に殺人を強要させる。

今まで通りの感情を持ち合わせていると、おそらく我々の方が壊れてしまう。

そこで私を含めチーム全員、VRによる実験を行い、

罪悪感を消した。


実験開始から2ヶ月ほど経った頃、5098番は実験成功と呼べるまでに、殺意という強い感情をコントロールできるようになった。

そろそろ世間に発表しようと思っていた。


ただ、殺意を感じないということは、息をするのと変わらなく、何も意味もなく人を殺せるようになるということだ。

担当していた私の相方が、目の前で首を絞められ殺されるのを見ながら、恐怖に震えながらそう思った。


「なぜだ!私は君がより良い人間になれるように協力してやっているというのに」

「なるほど。君は実験として人を殺させていたことに対しての罪悪感はないわけだな」


罪悪感……

そうか、感情を消すと今までの自分ではなくなってしまうのか……



白い床に自分から流れる赤い液体が広がるのを見ながら意識がなくなるのを感じた。

 バンッと2発響いた後、刑務官は囚人として実験に参加していた5098番と、研究者として参加していた7002番と7059番の死体を確認した。


記憶を消して、実験に参加し、1000万円か。

この世の中の犯罪量を減らすために、感情を無くす実験はいつになったら、生きて成功と言える人が現れるようになるのだろう。


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