王都デビュー
あれからすくすくと育ったココティアーナは現在3歳となり、拙い喋りだがフォース家の令嬢としてちょっとずつ成長をしていた。
「まだかな〜?」
「お嬢様、なんだか嬉しそうなお顔をされてますね?」
屋敷の中をちょこちょこ歩くココティアーナに丁度通りかかったメイドが声をかけた。
「きょうはね、まちにいくの!」
「まぁ!初めての外出ではありませんか。」
王都の東側に住むフォース家。
王宮で仕事をする父・ダンティールは社会見学として息子・ロンアークを連れて行った。
せっかくなので昼食を一緒にすることにし、そのまま彼女の王都デビューとなった。
「楽しんできてくださいませ。」
「うん!ありあと!」
まだきちんと話せていないがメイドには十分に伝わっていた。何故なら、こうして話せるように歩けるようになった彼女は屋敷の色々な場所を探検しては使用人らに話しかけ、コミュニケーションを図っていた。
前世の記憶を残したままの彼女は子供特有のワガママはなく利口に育ち、でも明るく楽しく遊ぶ姿にみんなの心は癒されていた。
そして、現にメイドもお嬢様は相変わらず可愛いと思い、自然と笑顔になるのであった。
「ココ。準備は整った?」
「はい!おかあしゃま!」
メイドに着替えを手伝ってもらい、外出用の洋服に姿を変えたココティアーナ。
ピンク色のドット柄に淡いブルーグレー色の襟付きワンピース。ポイントは大きめの襟とウエスト部分に結ばれたリボンである。髪型は背中まである天然パーマをそのまま下ろしている。そして前髪なのだが、癖っ毛が強すぎて言う事をきかない。それを少しだけコンプレックスを感じている彼女に大人になるにつれ落ち着きますよ。と慰めるメイドは前髪を編み込みにし、そこに飾りピンで留め、カバーをしてあげる。
それがより一層、彼女の可愛さを引き立てていた。
やった!やっと外に出られるー!
ずっと家に居て、少し退屈していた私。
なので今日が楽しみで仕方なかった。
お母様と馬車に乗り、街へ向かう。
緑豊かなこのルピシル国は季節折々に様々な花が咲く。その花畑を小窓から覗き、ますます興奮した。
「ふふっ、そんなに楽しみだったの?」
「はい!どんなまちなのか気になるの!」
「それは着いてからのお楽しみよ?」
人差し指を口元に持っていき、内緒のポーズをするお母様もなんだか楽しそうだ。
あっ、そういえば…
「おとうしゃまのおしゅごとってなぁに?」
「ダンはね、外交官っていう他国の人達と繋がりを持つ為の架け橋になるお仕事よ。」
ココティアーナの父親であるダンティール・フォースは王宮の外交使節団の大使をしている。先代からずっと受け継がれている職務なのだ。彼は30歳という若さであるが、頭のキレは宰相並みだ。その上、物腰の柔らかい雰囲気と他国との交流を円滑に進める話術も備えている為、この国には欠かせない存在でもある。
「わぁ!かっこいいでしゅ!」
「お父様にも言ってあげてね。きっと喜ぶわ」
「はい!」
上がってたテンションが落ち着き、大人しくなるココティアーナ。すると、ひょこと2つの緑の光の玉が彼女の肩に現れた。
加護を受けてからも未だ力は発現していない。でもアルファは焦らなくていいと言われてる為、彼女は特に気にしなかった。
会話は出来ないけど、何となくこの子達の感情が分かるんだよね。
妖精達は数は違えど、毎日必ず彼女の周りを飛び回っていた。特に彼女の肩や頭に乗るこの2つの光はきっと最初に出会った子達であろう。
ーーお話したい気持ちは私も同じだから、もうちょっとだけ待っててね?
お母様にバレない様に肩に乗る妖精達を撫でると、嬉しそうに頬に擦り寄ってきた。
「………っ!!」
か、わ、い、いぃ〜〜!!!
悶絶するココティアーナであった。
「うわぁ〜〜!!」
王都の街はそれはもう綺麗な街並みであった。同じ設計で並ぶ建物の色はオフホワイトやベージュで、屋根はオレンジやブラウンといった暖色系。出入り口や道沿いはその時期の花の花壇が並んでいた。
すごい!すごい!世界遺産に登録決定よ!
「こら、ココ。勝手に行かないの。迷子になりますよ」
馬車から降り、ふらふら〜と誘われる様にして歩き出す私にお母様は咎めるとそのまま手を繋ぎ、賑わう街中へ歩き出した。
辿り着いたのは中央に立派な噴水があり、囲う様にしてベンチが設置された広場であった。
「少し早く着いてしまったわね。12時の鐘の頃にはダン達も来るからここで待ってましょうね」
そう言って、マリアンナはココティアーナと一緒にベンチに腰掛ける。そして、ある方向に指を差した。
「あれがルピシル城よ。この国の国王達がいらっしゃるわ。」
王都の街中を一望出来る場所に建つルピシル城は白色の建物に屋根の色は緑色。遠くから見ても大きい事が分かる。
「おとうしゃまとおにいしゃまもあそこにいるの?」
「そうよ。ココも大きくなったら行くことがあるでしょうね」
「おかあしゃまも行ったことはあるの?」
「えぇ。お母様も王宮でお仕事をしていたわ」
まさかの返しに私は驚き、
「ほんとでしゅか!どんなおしごとでしゅか?」
「メイドよ。そこでダンと知り合って、結婚をしたわ」
お母様がメイドのお仕事を!
確かに赤ん坊の時、私の身の回りの事はお母様にやってもらう事が多かった気がする。それに私とお兄様の躾は全てお母様から教えられていた。
王宮でお父様と出会うなんて…、職場恋愛じゃない!
ココティアーナの前世は普通のOL。でも地味に静かに生活をしていた為、恋愛なんてものはしてこなかった。というよりかは恋愛に必要性を感じていなかったのだ。
「おとうしゃまのことすき?」
「ふふっ。好きよ」
もちろんココの事も大好きよ。そう言って、頬にキスするお母様は嬉しそうに幸せな表情をしていた。そんなお母様をみて、私もいつか恋愛をしてみたいと思うのであった。
「……? おかあしゃま、あのおしゅろもこくおうしゃまの?」
ココティアーナの目に留まったのはルピシル城の対極にある赤煉瓦色の建物を指した。
ルピシル城よりかは小さいがそれでもかなり大きな建物である。
「あれは魔法学園と言って、15歳になると魔力または加護を持つ者が学べる場所よ。」
「まほう…」
あれが魔法学園…。15歳になったら学べる場所。
“そなたが15の時に女神の加護を持った少女と出会う。“
ふと、黒い光の玉の言葉を思い出した。
ーーーもしかしたら、そこで出会うのかもしれないね。
ココティアーナはそう思いながら、学園を見つめる。すると突然、学園を覆う結界が何かによって突き破られた。