妖精王の加護
「まぁ!可愛いわココ!」
「本当ですわ!まるでお人形さんのようです」
楽しそうに声を上げたのはマリアンナとダリア。
午後になるとこの家に荷物が届いたのだ。
それはそれは大量に。
いそいそと荷物を解くメイド達をマリアンナの腕の中から見ていたココティアーナ。
すると、荷物の中から何かを取り出したダリアとメイド数人と共に別室へ移動。
そして、現在に至る。
そう。届いた荷物の中身は洋服だったのだ。
さっきからファッションショーの様に着ては脱ぎを繰り返される。
ーーふぅ…、少し疲れてきちゃったけど、でもおかげでやっと自分の姿を見ることが出来たわ。
なんて、思いながら鏡の中の自分をもう一度見る。まだ短いけどキラキラと輝くブロンドヘアは癖っ毛なのかくるんとパーマがかかっており、白くもちっとした肌に透明なローズピンク色の瞳。
お父様の瞳もピンクかかった色味だったので、きっとお父様ゆずり。
てか私、すごい可愛く見えるけど、この世界の顔面偏差値って高いの?
と思うココティアーナであるが、それは彼女がフォース家の令嬢な為、その血が流れているせいなのである。
自分の顔をぺたぺた触った次は着ているワンピースを摘み上げる。エメラルドグリーン・ホワイト・イエローのギンガムチェック柄の襟付きワンピース。裾の所々にアクアマリンの宝石が縫いついていた。
「もうすぐ春がやってきますね。そしたらすぐココティアーナ様のお誕生日ですわ!」
「本当。もう1歳よ。あっという間ねぇ」
2人の話によると私の誕生日は春のようだ。
もしかしたら、このアクアマリンの宝石からすると3月辺りってことかしら?
なんて考えていると、いきなり眠気が襲ってきた。
「ココ眠いの?たくさんのお洋服を着たから疲れちゃったのね」
こくり、こくりと身体が前に揺れる私をお母様は抱き上げ、そのままベッドに寝かせてくれた。
そして、ふと思い出すのは朝の出来事。
あの緑の光の玉はなんだったんだろう…。
あの後、すぐに消えてしまったので結局分からずじまい。
ーーーまた会えるかな…?
そう思いながら、私は眠りについた。
だって赤ちゃんは眠るのが仕事だもの。
ふわり、ふわりーー
なんだろう。さっきからうるさい。
声は聞こえないのに頭の上で何かが動いて、ほんのり温かい何かが頬に、手に当たって……、そこで脳が覚醒し、パチっと目を開くと目の前でアノ緑の光の玉が2つ飛んでいた。
「あ、いあ!」
いた!
目を覚ました私に気付いたのか光の玉はくるくると勢いよく私の周りを飛び回り、しばらくすると胸元にぴとっと留まった。
な、なんか落ち着いたみたい?
どうすればいいのか分からず、じっと眺めているとあちらも私を見つめている様な気がした。
なんでだろう?ただの光の玉なのに。
気付くと私は無意識に手を伸ばし、それに触れる。光の玉は私の手にじゃれつくように、ふわふわと撫でてくれた。
優しくて、温かい緑の光の玉。
「あーいぃ」
ふふ、可愛い。
お返しに撫でてあげると、またくるくると嬉しそうに飛びまわったのに突然シュッと消えてしまった。
えっ…いなくなっちゃった。
きょろきょろと辺りを見ても緑の光の玉はどこにも見当たらなくて、寂しく感じていると、
『ーーほぅ、これが私の愛し子か。』
「!?」
男の人の声と共に現れたのは白い光の玉。
驚いて固まっていると、またそれは喋り出し、
『愛し子が産まれた気配を感じて、あの子らに様子を見に行かせたが中々帰ってこないせいで私まで来る羽目になった』
やれやれと溜め息をつきそうな口調で話すと先程の緑の光の玉が2つ現れ、白い光の玉に何かを訴えかけている。
『まったく。だからと言ってそれは理由にはならないよ』
まぁ、ここに居たくなる気持ちは分かるけどね。
そう最後にぽつりと呟いた言葉に思わず首を傾げる。
ーーどういうこと?それに何者なんだろう。
『あぁ、そうだった。私は妖精王。君の加護になる者だよ。』
「あう?」
よ、妖精王……?
妖精王って、文字通り妖精の王様ってこと?
『そうだよ。この子達も妖精であり、私の可愛い子供達だ』
妖精王の言葉に緑の光の玉はふわふわと私の周りを飛ぶ。
てか、さっきから私の思ってることが分かるみたいだけど、
『ふっ、何で分かるんだ?って顔をしておるな。お前の表情を見ていれば大体分かる。それと私に向かって話しかけるように念じてみろ。会話が出来るよ』
教えてもらった事をさっそく実践してみた。
『妖精王さん、聞こえますか?』
『うん聞こえるよ。可愛い声をしているね?』
『………。』
可愛い声ってそんなこと初めて言われた。
なんて返せばいいのか分からなかったので話を変えた。
『加護ってなんですか?何かする事があるのですか?』
『我々の様な存在に気に入られ、その愛し子に力を与え、守り手助けをしてあげるものだよ。』
必ずしも何かをしないといけないという決まりは我々にはないが、この世界は加護を認識している。それをどうしているのかはこれから学んで、自分で決めるが良い。
と教えてくれた。
加護って本当に存在するんだ…。と異世界に転生したことを改めて実感する私。
『ここの世界の人達はみんな加護を持つのですか?』
『全員必ずしではない。爵位を持つ一族は持っておるが、平民はいないであろう。』
『なるほど…』
加護はある意味ステータスでもあるってことね。
『妖精王さんは他にも加護をあげた人はいますか?』
『いや、私はあげたことはないよ。』
『………、』
えっ、あげたことないの!?
『妖精は自由を好む。人間の面倒など見るのは億劫だ。……だが、』
ふわりと私の目の前へと近付き、さらに言葉を続けた。
『お前の魔力が私のに反応したのだ。
それにまだ赤子なのに膨大な魔力を内に秘めている。だが、脅威をまったく感じないとは不思議なもの。実に興味がある。』
なんかそれって珍しい私に興味を持ったから加護を与えてみようっていう理由にしか聞こえないんだけど。
“愛し子”って呼ぶからてっきり大切な人の事を指すかと思ったけど…、
「うぅ……」
なんか嫌だ。
眉間にシワを寄せ、もやもやとした気持ちになっていると、妖精王はそんな私に、
『お前は何か思い違いをしているようだが、私は興味本位で加護を与えるつもりはないよ』
『どういうことですか…?』
『加護を使うには愛し子の魔力も必要となる。他の加護はどうだか分からないが私の加護は多くの魔力を消費させてしまうから扱える者は今まで居なかったのだ』
つまり、妖精王の加護は普通とは違うってこと?その“普通“もよく分からないけど。
『それに我々の姿は人間には見えないもの。なのにお前はそれが見えた。運命だと思わないか?』
『運命……。』
黒い光の玉にも言われた。私には珍しい加護が付くと。
『……これから先、何かが起こるかもしれませんがそれでも、私に力を貸していただけますか?』
ぽつりとか細い声で呟くと、妖精王さんは私の額にふわっと触れ、
『あぁ、もちろん。愛し子の為に私もこの子達も力を貸すよ。それに妖精は面白いことも好むのだよ』
温かい光と共にくれた優しい言葉が嬉しくて私は頬を緩めた。
『さぁ。そろそろ儀式を始めようか。
私の愛し子よ。名を教えてくれるか?』
『私の名前はココティアーナ・フォース。』
『ココティアーナ…。良い名だな。
“妖精王・アルファはココティアーナ・フォースに妖精王の加護を与える”』
白い光がココティアーナの身体を纏い、吸い込まれるようにして消え去った。
何となくじんわりとした何かが身体の中を巡る。きっとこれは加護の力なのかもしれない。
『まだ赤子だから力は覚醒しないが、いずれ発現するので焦る事はないぞ。
それから私の事はアルファと呼ぶが良い』
『はい。アルファありがとうございます。』
先回りして聞きたい事を言ってくれるアルファ。
………ん?あれ?そういえばさっきから、
『私、赤ちゃんなのに話が理解出来るってなんで気付いたのですか?』
『今になって気付いたか。ココティアーナの魂は二重に合わさっている。生前の記憶が残ったまま産まれ落ちたのだろう?』
『はい、それって大丈夫なの…?』
『もう少し歳を重ねてゆけば、自然と融合する。』
淡々と言うアルファの言葉に安堵するココティアーナ。
こうして彼女は妖精王アルファと出会い、加護を加護を授かったのであった。