転生
「ーーーっ!?」
気付いた時にはもうすでに手遅れだった。
スピードを落とさないトラック。
人々の悲鳴、叫び声。
直視出来ないほどのヘッドライトの光を浴びた私は衝撃と激痛を感じた瞬間にはもう意識を失った。
『ーーーうっ…』
ふよふよと身体が浮かんでいるような不安定な感覚に目を覚ます。
起き上がるとここは何も見えない暗闇の中だった。
『えっ、もしかして私、地獄に行くの?』
眉を下げ、不安そうに辺りを見回す彼女は小さく溜め息をついた。
日頃の行いが悪かったのかな?でも、普通に会社に行って、真面目に仕事して帰宅して、友達も少ないから休日は殆ど家で過ごして……。
思い返すとあまりにも地味な生活に思わず苦笑い。でも、そんな生活も悪くなかった。
好きな時間に好きな事をする。一人暮らしだから誰にも干渉されないし、ストレスも溜まらない。
それより今はこの状況が問題だ。
死んだはずなのになんでこんなに意識がはっきりしてるの?
身体だってしっかりとしてる。と思いながら、自分の顔をぺたぺたと触る。
『どうしよう……』
『ーーほぅ。もう目覚めたか』
『っ!?』
突然聞こえた女性の声にビクッと肩が震える。振り返っても見渡しても、真っ暗闇だから何も見えず怯えていると、
『ここじゃよ』
目の前に黒い光の玉が現れた。
周りは暗闇なのにこの玉は黒く光っているように見える。
戸惑いを隠せない彼女は恐る恐る口を開き、
『あ、あなたは誰ですか?』
『わらわは死んだそなたの魂をここに連れてきた者じゃ』
『……連れてきた?なんの為に?』
『少し訳があってな。……そなたにしか頼めないのじゃ』
そう言うと、黒い光の玉は私の周りをぐるぐると回り出す。
なんか観察されてる…?
暫くするとまた私の目の前に留まり、
『やはりな。連れてきて正解じゃ。わらわの話をきいてくれないか?』
ーー黒い光の玉が話し始めた内容はそれは信じがたいものだった。
私にある世界のとある国の人間に生まれ変わってほしい。
そして、15の時に女神の加護を持った少女と出会うのだが、その者はその素晴らしい加護がありながら闇魔法に手を出してしまうようだ。
そして、少女の周囲にいる人間が魅了魔法で意識を支配されてしまう。このままでは国が大変なことになる。
それを私に救って欲しい。との事だ。
『……なんともファンタジックな話』
『ふぁんたじっく?どう言う意味じゃ?』
聞かない単語だったようで、不思議そうに尋ねられる。
『いわば非現実的ってことです。』
『なるほど。まぁ、そなたからしてみればそうじゃな。
ーーそれで、やってくれるのか?』
『……もし、断ったらどうなりますか?』
なんとなく聞いてみたら、まさかの悲劇的な返答が返ってくる。
『そうしたら、ずっとこの暗闇の中で過ごすしかないのう』
『え!?それって、私の魂が成仏されないってこと!?』
『まぁ、そうなるのう』
のほほんとした返事に内心イラッとした。
『ここにいたくはないじゃろう。だから生まれ変われば良いのじゃ。そなたの加護はとても珍しく強力であるぞ?』
『……その加護とか魔法とか言われても、』
どうすればいいのか分からないよ。
『大丈夫じゃ。いきなり魔法を使えとは言わん。ちゃんと段階は踏んでもらう』
不安がる私に黒い光の玉は楽しそうに声を上げた。
『うむ。そろそろわらわの力もここまでじゃな。』
『えっ!ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!』
だんだんと消えていく黒い光の玉に慌てる私。
『いきなりですまないがよろしく頼むぞ。
ーーーココティアーナ・フォース』
黒い光の玉が消えた瞬間、暗闇だった空間はパァンと弾けるようにして光り輝いた。
反射的に目を瞑った私は意識を失い、
「ふぎゃあぁーふぎゃあーー!!」
「母さまー!ココが起きましたよ!」
気付いたときには赤ちゃんの姿だった。