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4分3

 全くもってこの世界はクソったれである。


 いつもの様に、この俺……溜杉(ためすぎ) 兵斗(へいと)は、心の中で広範囲に渡るヘイトをまき散らしていた。


「お~い、兵斗(へいと)よ~い!」


 中学校へと一緒に登校するクソ幼馴染……朽岳(くちだけ) 馬子(うまこ)は、俺の耳元に向かって大声を上げた。


「なんだ五月の蝿の様に。


 今は四月だぞ」


「そうさ、その四月……すなわち、中学校の、入学式だ!


 幼稚園から小学校と、実に9年間、同じクラスだった私たちだけど。


 果たして今度も、同じクラスになれるのかなぁ?」


 少女は何だか嬉しそうに、両手を合わせて俺を見ている。


 浮かれポンチめ。


 まあ、でも、言いたいことはわかるさ。


 恐らく俺と馬子の運命は、ドドメ色の糸でつながっている。


 良く分からない邪神に愛されていると言ってもいい。


 そうでなくては、9年連続同じクラスとか、あり得ないからな。


 しかし、運命とは、自分で切り開かなくてはならないものなのだ。


「あ~……えっと、先に言っておくぞ。


 中学校では、馬子。


 俺とお前は、他人(・・)、な」


「……ん?」


 幼馴染は、笑顔のままで表情を固まらせて、質問した。


「え、な、な、なんで?」


「なんでもクソもあるか。


 お前のせいで、俺は今まで、女友達はおろか、男友達もいないんだよ!」


 俺の絶叫に、少女は笑いながら答える。


「いやあ、女友達はともかく、男友達がいないのは兵斗が勝手にヘイトを集めているせいであって……」


 図星を付かれた俺は、思わず大声を上げる。


「五月蝿い黙れ、バーカバーカ!


 お前のカーちゃん、VTuber!」


「……と、突然どうしたんだ、兵斗……。


 あと、私のカーちゃんは、専業主婦だぞふざけるな殺すぞ」


 俺は「悪い、言い過ぎた」と呟いて、こほんと咳ばらいをすると、話を続けた。


「……とにかく、このままだと俺は、中学生で彼女を作ることが出来ない。


 それは、とても、困るのだ」


 そう、中学生では、彼女が欲しい。


 そのためには、この幼馴染が、邪魔なのだ。


「なんだ、彼女くらい。


 私がいるじゃないか。


 不満か?


 これでも、顔面偏差値は高い方だと思うし。


 人体部分も、豊満だと自負しているが」


 コイツの言葉は、驚くことにあまり間違っていないらしい。


 他のヤツらに聞くと、このアホは、そこいらのアイドルなら裸足で逃げ出すレベルの美少女だというのだ。


「お前の顔なんて、自分のウンコくらい見慣れてるから、可愛いとか可愛くないとか、よくわからんのよな」


「お、女の子相手に使っていい例えじゃない!」


 バカ言え、男の子相手でも使っちゃダメな例えだぞ。


「それに、お前は、恵体糞中(めぐたいくそなか)だから、なあ」


「なんだ、恵体糞中(めぐたいくそなか)とは」


「『恵まれた体で糞みたいな中身』の略」


「おま、二度と恵体糞中(めぐたいくそなか)っていうな、二度とォ!」


 そう、コイツは、見た目と口だけ、なのだ。


 コイツの性格は、正義感があるものの、ヘタレでビビりでチキン。


 まさに、クソのような中身なのである。


 それでも、エロいことをさせてくれるならまだ良い。


 しかし。


「でも、付き合っても、エロいことは、させてくれないんだろ?


 キスとか」


「ばばばバカ!


 そそそそう言うのは、けけっけ結婚してからだろ!」 


「古風かな?」


 そう。


 そうなのだ。


 コイツは、何故か物凄く、ガードが堅いのだ。


 結婚するまでは、A(アルファ)B(ブラボー)C(チャーリー)も、させてくれないという。


「わわわわかった、お前が望むなら、結婚前でも、手を『恋人繋ぎ』にするのは……あ、アリに、して、やろう!」


「戦前の倫理観かな?」


 顔を真っ赤にする幼馴染とは対照的に、俺の心は冷えていく。


 幼馴染の少女は、ひとしきり顔色を赤くしたり青くしたりした後、諦めた様に、呟いた。


「そ、そうか、そうだよな。


 兵斗も、青春真っ盛りの、中学生男子なんだよな。


 性の喜びとか、知りたいよな」


「言い方」


「分かった、分かったよ。


 いいよ、最終的に私の元に戻ってこれば」 


「世紀末覇者の考え方かな?」


 幼馴染は、涙を拭うような仕草をして……マジで泣いてないよな?……俺に向かって、高らかに宣言する。


「仕方ない。


 中学からは、私と兵斗は、他人同士だ!


 同じクラスでも、声を掛けるなよ?」


「ああ、他人同士だ。


 よろしくな!」


 俺たちは、力強く握手を交わす。


 そんなコミュニケーションを繰り広げる俺たちの横を。


 犬を散歩させたおばあちゃんが「仲がいいねえ」なんて言いながら通り過ぎていった。



 あ、あと、クラスは、同じだった。

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