シュワッチ
「で、その時にオススメなのが、振りのイメージを声に出して見ること!たとえば今のだったらさ」
と、両腕をスッと伸ばし、今教えてくれていた振りの構えをする。
「左まげ、シュワッチ、手首まげて四角、みたいなね」
シュワッチというのは多分、あの某有名ヒーローの事だろう。
左手を水平にしてそれを支えに、右手をピッと立てる。
その構えがまさにこれだった。
「たしかに、振りに対して、自分が持っているイメージをそのまま言葉にした方が覚えやすそうだな」
俺たちの様子を見ていた海人が口を挟む。
それはもう、的確なまとめだった。
「そうそう!あんまり一つ一つにこだわりすぎると、その一つの振りが飛んだ時についてこれなくなっちゃうからね、大事なのは全体をとらえる事」
ビシッと指を指すなっちゃんは、さながら講師のようだった。
なっちゃん先生のダンス講座、大人気開講中。
「ホントはちゃんとその動きに名前がついてたりするんだけど、そこまで覚える必要はないかな。なんか自分にとって覚えやすい動きをポイントにして区切っていけばいいんじゃないかな?」
振り付けのセーブポイントを作るって感じか。
一カウントで細かく分けると追えなくなった時、そこから持ち直すのは難しい。
だからもっと大きな流れを捉える。
記憶しやすいキーポイントを要所に頭の中で持っておく。
そんな所だろう。
「なるほど、なんか分かるかも。ありがとなっちゃん!」
トモヤスが、グッと立てた親指をなっちゃんに向ける。
「ホント?それはよかった!」
なっちゃんも同じような仕草でそう返す。
側から見れば、そのやり取りは結構良い感じに映っているようにも思える。
「じゃあさ、一回声出してやってみよっか。とりあえず私が適当に声当ててみるから、それ真似するかんじで!」
「はーい」
また声出すやつかあ。
この前のリズム取る時もやったが、俺にとっては割と苦しいものがあるのだ。
その様子を山本なんかに見られたら、もう、ね。
「いくよー!左まげ、シュワッチ、手首まげ四角、合わせて立てて、クロスしてスライド。ハイ!」
俺たちに続くよう促すなっちゃんに従い、復唱と共に動きを合わせる。
「左まげ、シュワッチ、手首まげ四角、合わせて立てて、クロスしてスライド…」
ああもう恥ずい恥ずい。
男3人衆は普段の部活からか、声を出すことに特に抵抗は無いようで、元気に張り上げる様子を見せる。
俺も元運動部なものの、声出してるフリばっかしてたからな、口パクで。
通常の何倍もの声量を出す事は俺にとってかなりエネルギーを使う事なのだ。
そしていつもの如く、余計な自意識が邪魔をする。
「うんうん、そんな感じでさ、声で当てていくのが良いかもね!今のは流石にいちいち多すぎるかもしれないけど、特に自分の覚えにくいところとか、ミスしやすいとこに名前をつけてあげるようにしてさ」
俺たちの様子を見ながら、なっちゃんがコクコクと頷く。
こうやって分かりやすくリアクションで示してくれる所に、彼女の優しさを感じる。
「うん、なんか覚えやすそう感あるな!この方が」
「確かに」
トモヤスの目一杯のフォローに、アッキーも同意を見せる。
「続きもこんな感じで私がとりあえず適当に言葉あててみるね。それを自分なりに変えてみたりして、覚えやすいようにしてもらって大丈夫だから!」
「はーい」