表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺には全く関係がない。  作者: みやりく
休日ですら休みにならない。
65/68

面倒

 体育館の中へ入ると、もう既に集まっている多くの生徒たちの話し声が、一気に耳に飛び込んでくる。

 

 先ほどまで感じていた普段とは違う休日の校舎の静けさが、その賑やかさを一層際立たせていた。

 ホント朝から元気。

 

 とりあえず、いつもの4組メンツを探す事にした。

 

 すると一瞬で、分かりやすい目印が、目に飛び込んでくる。

 

 他の男子より少し突き出るように立っている、アッキーがいた。


「アッキーおはよう」


「おお、ミナトか。おはよう」


「やっぱ見つけやすいな、アッキーは」


「そうか、じゃあもっと目印になれるように身長伸ばすわ」


「いやもう十分だろ」


 俺とアッキーだけの会話となると、こんなにも熱が感じられないものになるのか。

 その低温度で緩やかな会話が、ややまだ寝起きな頭と体には丁度良かった。


「二人は?」


「あっち」


 そう言って指差した方に、トモヤスと海人の姿があった。

 

 おそらく運動部の知り合いで集まっているのだろう。

 

 見た事のある顔もあったが、誰一人として話した事のある生徒はいなかった。


 帰宅部&クラスに居座る出不精が合わさると、こんなにもコミュニティの範囲が狭くなるのだ。


「アッキーは行かねえの」


 トモヤスと同じ部活なのだから、あの中でも知り合いは多くいるはずだ。

 

 だがアッキーは俺が声をかけるまで、その大きな体をスッと伸ばして一人立っていたのだ。


「いや、朝からあのテンションはキツい。朝あいつらと絡むのはまだ早い」


「なんだそれ...」


 とは言いつつも、まあ何だか分かる気もする。

 

 トモヤスを初めとするその集団は、いかにも運動部というノリで、朝から元気にはしゃいでいた。

 あの輪の中に入るのは、かなりカロリーを浪費する事だろう。


「ん、ミナトはいかねえの?」


「いや全然しらんわあの中の人ら」


 最初の踊りの振り付けは終わり、全体で合わせる事も多くなった。

 

 他のダンスの振り付けなど、個別練習はいつも通りなっちゃんと、あの3人とするわけなのだが、全体練が増えるという事はすなわち、彼らとも関わる機会が多くなるというという事を意味する。

 

 となると、あの輪の中にいる彼たちとも、また「はじめまして」のステップから始めなければならない。

 

 出会っては馴れ合い、そして別れる。

 生きていく上で当たり前のこのサイクルは、おそらくこれまでも、これからも続いていく。


 俺にはそれが、どうにも面倒くさい。

 

 独りは避けたい。

 だから最低限の力はかける。

 

 でもこの場面はどうだ。

 

 同じクラスでも、部活でもない、この行事きりの関係。

 

 体育祭が終われば、会う事は少なくなっていくだろう。


 関係はまた元の状態へと近付いていき、代わりに微妙な距離感だけが残ってしまう。

 

 どうせすぐに薄れる関係だ。

 

 ここでわざわざ苦心する必要が、果たしてあるのだろうか。

 

 少しで良いんだ。

 

 掴んだ一握りの物を離さないように、持っていさえすれば。

 

 沢山は要らない、手にする気も、本当はない。


 だが如何せん、同じ団として行動する以上は、関わらざるを得ないのだ。

 

 中途半端に関係を持とうとする事が一番、自分にとっても相手にとっても良くない。

 

 だからと言って無愛想にやり過ごしてしまうのも、それはそれで相手に悪い。


 社会で生きるというのは、俺にとってこれほどまで複雑で、面倒に見えるものなのだ。

 

 今もなお戯れる彼らは、そんな風に思った事があるのだろうか。

 

 俺が考えている事なんて、彼らにしてみれば取るに足らない、ただの邪推でしかないのだろうか。

 

 まあその心の内は、知る由もないのだが。


「まあ別にそのまま知らなくてもいいと思うぞ。あいつらホントにめんどい時あるから、キレそうになる」


「いやガチトーンやめろよ」


 とはいえ冗談で言っているのは分かっているが。

 

 相変わらずアッキーは表情が掴みにくかった。

 

 同時に俺もこういう風に移っているのかもしれないと、彼と接する度にそう思う。


「まあそろそろ始まるしな」


「そだな」


 そう言った矢先、今日もその金色の髪を煌めかせた椿原先輩が、スピーカーを手に取り注目を集める。


「おはよーございまーす」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ