不慣れと持論
「松木さんてさ、山本とは一年からの知り合い?」
「ん、かえちゃん?そうだよ、一年の最初の方からよく一緒にいるね。あ、『さん』いらないよ。松木、とかで大丈夫」
気さくに呼び捨てを勧める彼女。
嫌な感じは全くなく、むしろ彼女に対しては好印象なのだが、全体的な話として、俺はまだこの高校生のフランクさに慣れていない所がある。
校風もあるのかもしれないが、高校の女子たちは、基本的にみんな優しい。
比べる事自体愚行なのだろうが、中学の頃は、それはもういがみ合いが日常茶飯事であったから。
それでもだ。
そんな同じ中学だった彼女たちであっても、時たま再会した時の雰囲気は、あの頃とは似つかない、角の取れた印象を受ける事が多い。
高校生になれば、何かが自動的に変わるような、そんな魔法のようなものにでもかけられるというのだろうか。
丸くなる事は、別に悪い事ではない。
むしろそれは、一歩大人に近づいたという証だ。
だが俺は考える。
「高校生になったから少し大人に近づいた」みたいな、そんなブースト効果で人が変わるなんて、やはりどこかおかしくはないだろうか。
俺にとっては「成人したら大人になれる」の理論とも似た違和感を、そこに感じるのだ。
きっと誰しもが、自分が変わるきっかけを探している。
何かの節目やイベントに、意味を見出そうとする。
大人に向かうはずの、途中でズレたその軌道を修正するために。
昔とは違う、成長した自分でありたい。
変わらなければいけない。
でもそれを一人実行するにはエネルギーがいる。
だからあるタイミングで、皆が同じように変化しているように見えるのだ。
周囲が成長していると、そう感じるのだ。
進学というのは、その基準の一つなのではないか。
決して悪い事ではないはずなのだ。
悪いのはむしろ、その流れに乗れず、乗ろうともしていない俺の方か。
周りは何かに頼りながらではあるが、変わろうとしている。
何もしない俺と、彼らとの差が、その不慣れな感じを自分に抱かせているだけなのか。
俺のこの感情は、きっと誰にも共感される事のない、ただの自己満足の邪推だ。
「高田くん?」
松木さ、松木が心配そうな顔で、俺の顔を覗き込む。
その声にハッとなり、思わずグッと息を吸い込む。
また自分の中で何か結論を付けようとしてしまっていたのだ。
側から見れば、一時フリーズしているように映っていたのだろう。
悪い癖だ。
俺から話を振っておいて、申し訳ない。
「ああ、わるい、ちょっとボーッとしてた」
「ええ?!一対一で話してて?アハハハ」
困ったような、だけども面白可笑しいといった様子で、口元を隠すように押さえて笑う。
スッと鼻筋の通った、やや大人びた顔立ち。
それに加え、上品さを感じさせる仕草。
山本とはまた違った華やかさが、彼女にはあった。
「いや割とこういう事多いんだよ俺。自分でもこわいわ」
「えー、ホント?高田くんてなんか面白いね」
え、そう?
女子に面白いと言われるのは悪い気がしない。
むしろ内心テンションが上がる所だが、その感情は俺の場合、外に出ている事はないだろう。
「なんか」は気になる所だが、何にせよ笑ってくれる女子は有り難い。
男子はそういう女子にめちゃくちゃ弱いから。