横浜
いつもであればもう少し混んでいるはずの車内も、あらゆる方向から押し寄せる横浜の人波も、土曜の朝ではそれらがまだ控えめだった。
おそらく高校生活で土日に学校へ向かった事など無かったので、これはある意味発見か。
体育祭が終われば、もう行く事はないのだろうが。
多分ね。
横浜駅から綾英に向かう生徒は、大半がこの駅西口側を出て、まずはちょっとした繁華街を抜けていく。
西口の交番あたりを通り過ぎるところで、近くのうどん屋の匂いが鼻をくすぐる。
まともに朝食を取らずに通る時などは特に、それはなかなか空腹に訴えかけるものがあったりする。
隣にはたい焼き屋、その向かいにマック、ゲーセンなど、高校生にとっては誘惑となるようなものたちが、この通りにはズラリと並んでいる。
だがそんな賑やかしい様子とは裏腹に、ここら辺はそこかしこにゴミが散乱していたり、あるいは排水溝の臭いに刺激される事もしばしばである。
もう慣れたが、相変わらずこの街はクリーンとは言えない。
横浜駅内、中の百貨店、あるいは駅地下の空間はよく整備されているものの、外へ出てみれば、意外にもそこにはオシャンな港町、横浜の姿はない。
そのイメージは、全て「みなとみらい」に託されているのだと、個人的には思う訳である。
高層マンション、ショッピングモール、遊園地、海に面した土地に港。
そして地下鉄が高い。
だからここ横浜を世間が思い描く「横浜」というには、なかなかギャップがあるのである。
特に環境問題については本当は改善を急ぐレベルなのだが、あまりの人の多さに公共も対応しきれていないといった所か、手に余っている状態なのだ。
まあそれでも、横浜にも良い所はたくさんあると思うのだが。
これも多分ね。
まあ、すぐ近くに寄る場所がここまである高校もそう無いだろう。
ちょっと歩けば海に面したショッピングエリア、「ベイクォーター」にも行ける距離だからな。
高校生にとってはテンションの上がる所ではあるのだ。
全部他人に限った話だけど。
軽く息を止めつつ、決して綺麗ではない海を跨ぐ橋を渡ると、しばらく信号の並ぶ狭い道路を真っ直ぐに歩く。
少しすると道路の幅が広くなり、そこをまた進めば、段々と綾英の校舎が見えてくる。
耳にしていたイヤフォンを流れる曲が終わり、ちょうどそれを外しながら正門をくぐった。