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俺には全く関係がない。  作者: みやりく
一人では全てを成し遂げられない。
55/68

考慮

「タイムの遅めの人は早く加速を始める。速い人がちょうどテイクオーバーゾーン後方で追いつけるくらいの調整をしてね。逆に遅めの人が渡す時はその逆ね」


「そうすれば速い人は長く、遅い人は短い距離で済むからな」


 この作戦は確かに取り入れる価値があるものだ。


 だが懸念はある。

 俺は言葉を継いだ。


「とは言っても練習がいるだろ、これ」


「うん、そうだね。練習はする、HRの時間とか使ってね。あとはなるべく上手くいくような組み合わせで組ませてあげる事が出来れば」


「上手くいくってのは、例えばどういうのだ?」


 確かに、他のクラスもバトンパスの練習くらいはするかも知れないが、体育祭までの短期間で劇的にその技術が上達するとは考えにくい。

 

 そしてそれは、ウチのクラスにも言えることなのだ。

 

 ならばと、組み合わせを工夫するという方に導く彼女の考えは分かる。

 

 ここはなかなか考え所かもしれないが。


「今考えてるのは、体格差とかは考慮した方がいいかなって所。あとは、女子は女子同士で組み合わせた方がコミュニケーション取りやすいだろうし、ウチは女子多いからそこはやりやすそうかも」


 と、すぐにレスポンスが返ってくる。

 

 その回答は、既に準備済みだったのだろう。

 さすがの実行力。


「なるほどな」


 バトン練習をなるべく成果のあるものにしようという彼女の考えは分かった。


 練習はする必要がある。

 

 だが俺は、昨日水道で見た彼女たちの事を思い出していた。

 

 クラス対抗リレーの仕組みに対して、山本のやり方に対して、苦言を呈していた彼女たち。

 

 バトンの練習は、そんな彼女たちにもさせる事になるのだ。

 

 これ以上巻き込むとなると、その不満は更に蓄積するだろう。

 

 自分と似たような感情を持っている存在だからこそ、何か俺に出来る事はないかと考える。

 

 遠くの境遇にいる人間を、助けたいと思うのは簡単な事ではない。

 

 自分に近いからこそ、思いを馳せられる。


 善意とは所詮そういうものだ。


「...話ちょっと変わるんだけどさ」


「ん?」


 紙の方を見ていた彼女が上目でこちらを見る。

 

 睫毛が綺麗に上の方を向いていた。


「特にタイムの遅い人なんかはさ、割と序盤で走らせてあげた方がいいんじゃねえか」


 自分の欠点というのは、大体の人間がそれを自分で嫌っているものだ。

 

 ただでさえ嫌なものが、集団となるとそれがきっちり責任として露見してしまう。

 

 これは本当にタチが悪い。

 

 自分の中だけで留めておけばいいものを、わざわざ筒抜けにしてあるいは迷惑をかけるのだ、一番責任を感じるのは当人であるに違いない。

 

 しかしそれは完全に自ら選択したというわけでもない、「行事」という半ば強制的なイベントに参加する事によって起きている。

 

 だからこそ、理不尽さがあると言っても別におかしくはないと、俺は思う。


「それは、どうして?」


 笑顔で尋ねる彼女は、本当はもうその答えを知っているようだった。

 

 まったく抜け目が無い。

 

 それでも俺に言わせようとするのは、また俺が「周りをよく見てる」とかなんとかいうのを暗に伝えたいのだろう。

 

 買い被りだ、生憎俺はそんな人間ではない。

 

 なので軽くぶっきらぼうに答えてみる。


「いやだって、プレッシャーとかあるだろやっぱ。なるべく序盤のそういうのがかからない所で走らせてあげた方が良いっていうか」


 やっぱりね、といった様子で微笑む彼女。

  

 あえてその表情は見ないようにした。


「うん、それも考慮に入れよう」


 順番を組む上で、だいぶ留意すべき事が増えた。

 

 中間のつなぎ役。

 テイクオーバーゾーンの話。

 体格差、人間関係、タイムの速くない人への配慮。

 

 ここまで考えてるのウチのクラスくらいだろ。

 

 それもこれも、山本楓という行事ガチ勢がいるからだ。

 ほんとガチ。

 

 ただ更にここからもう一つ、考えるべき事がある。

 

 それはきっと、彼女も分かっているはずだ。

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