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俺には全く関係がない。  作者: みやりく
一人では全てを成し遂げられない。
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テイクオーバーゾーン

「まあこれで1、2、3番目は決まった。で、最後は四番目、ではないよな何となく」


 自分で言いかけて最後はそう否定した。

 

 1から3番で、レースの流れを作り上げる。

 

 後はいかにそれを上手くキープしてアンカーに託すか、だ。

 

 クラスは40人いるのだ。

 

 間の繋ぎももちろん重要になってくる。


「うん、そうね。最後に大事になってくるのは、その流れを上手く保ってくれる人。ずっとキープ出来るって事はまず無いと考えた方が良い。だからその崩れかけた流れを取り持つ役が中間にほしい」


「複数人置いておくってことか」


「そ。まあここも男子に頑張ってもらうと思うけどね、タイム的に」


 うーん、と言いながらその真剣な眼差しを紙の方に向ける。


「...お前はそこに入ったりはしないのか」


「んー入るかも」


「結構速かったもんな、見てた感じ」


「...」


「...なんだよ」


 黙って意外そうな顔をこちらに向ける山本にそう聞く。

 

 何か俺変なこと言ったか?


「やっぱミナトくんってさ、意外と見てるよね、人のこと」


「は?」


 その言葉は俺の望むところでは無かった。

 

 俺は周囲なんて気にはしていない。

 

 たまたま目につく事がある、それだけの話だ。

 

 見当外れな事を言う彼女に苛立ちなどは一縷も無かったものの、何だかその言葉がくすぐったいというか、どう受け取れば良いか分からず、語彙力の備わらない返事を返す。


「いや見てねえし」


 そう言って目線は明後日の方向に逸らす。

 

 放課後のこの時間は、真っ直ぐ帰る事なく、暇をもて余す高校生たちで賑わっていた。


「ふーん、じゃあ自分では気づいていないだけかもね」


 フフンと笑い、ストローを口に運ぶ。

 

 気づいていない?


 自分の知らない自分ってのは、確かにあるのかもしれない。

 

 他者評価というのは意外と当てになるものだ。

 

 しかしそれを受け入れるかどうかは、結局自分次第なのだが。

 

 意にそぐわないのであれば、その他人の認識は自分の側から変えていく。

 

 自分の認識と他人の自分に対する認識が違っていても、他人の側に合わせる必要は無い。

 

 自分の印象は、自分で作り上げる。

 

 俺は少し逸れかけた話を、元に戻そうとした。


「その中間役は何人くらいおくんだよ」


「大体7秒2より速い人がこのクラスだと10人いるんだよね。で、さっきのミナトくんのぞく3人抜けば残り7人。ここら辺の人たちを上手く区切って入れていきたいね」


「...となるとアンカーと3走者目まで抜いて36人。大体5人に一人くらいの中で突っ込んでくって感じか」


「...そーだね。あとはタイムの遅めな人と速い人をなるべく交互に組ませる事も考えなきゃいけない」


「それは何でなんだ?」


 少しだけ、山本の方と目を合わせるようにする。

 

 彼女はいつも通り、しっかりと俺の方に視線を向けていた。

 

 常に人の目を見て話をしている証拠だ。

 

 大きな瞳が、ぱちりと動く。


「テイクオーバーゾーンはわかる?」


 その聞きなれない言葉は、先ほど彼女の口から放たれたものだった事を思い出す。


「なんかさっきチラッと言ってたやつか。あの文脈からいくと、バトン受け取る範囲の事っぽいな」


 俺の推測に、そ、と頷く山本。


「バトンパスってさ、渡す側はなるべく減速せずに、受け取る側は加速しながら、トップスピードに近い状態で受け取れるのが一番いいじゃない」


 特に考えた事など無かったが、言われてみれば当然彼女の言った内容は理にかなっている事だった。

 

 なるべく走者が全力疾走に近いスピードを出し続けながらバトンを繋ぐことが出来たら、それは限りなくベストといえる力が出せている訳だ。

 

 最も減速が考えられる場所。

 

 バトンを受け渡す所。

 

 つまりは彼女の言う「テイクオーバーゾーン」だ。


「確かにな」


「で、速い人に出来るだけ長く走ってもらった方が良いわけ」


 その一言で、得たものがあった。

  

 彼女に聞かれるまでもなく解答してみる事にした。


「だから速い人と遅い人を交互に組ませて、速い人の距離を稼ごうって事だろ」


 俺の返答に山本はおっ、と少し口を開き感心するような様子を見せ、すぐさま笑みを浮かべる。


「そーいう事。さすがミナトくん」


「まあここまで言われたらもう答え出てるようなもんだしな」


 純粋に褒められたので、ややつっけんどんな声音で返事をしてしまう。

 

 なんでツンしてるんだ、俺は。

 

 山本は特に気にとめる事もなく話を続けた。

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