三番目
「それにね」
そう言いかけた山本は、手の平を俺に向けていた。
どうやら「待って」の合図らしい。
というのも、山本はハンバーガーをもぐもぐしていた。
...もぐもぐしていた。
そしてそれを一通り食べ終わると、ふうと一息ついて、また変わらぬ調子で話し始める。
「もしミナトくんが上手くバトンパスをこなして、ポジション取りができると、より三番目の人にその役割が求めやすくなるんだよね」
「...はあ。というと?」
「レースの流れを初めに作ってもらうの。なるべくトップに近い位置でね。常にトップとは近くに居たいからね。だから、ここで起用するのは、二番目にタイムの良い人」
「二番目?もう使うのか?」
何となく、速い奴は後ろに固めておいた方が良いと、直感的には思っていたので、少し予想外な彼女の構想に思わずそう聞き返す。
山本はそれに頷き返す。
「ここは何としてもそのレースの流れを見せておくっていう意味でも出し惜しみしない方がいいと思うんだよね。速すぎても「抜かれたら」という不安が頭をよぎる。逆に遅すぎるとそれは諦めの早さに繋がってしまう。「あともう少しでいけるかもしれない」くらいが、集団のモチベーションを一番保てる所だと思うんんだよね」
そう自信ありげにいう彼女の言葉には、しっかりとそのロジックが担保されていた。
常に「現実味のある頑張り」で巻き返せるレース展開であるように。
諦めない、その気持ちを持続させる事は本当に難しい。
ならばそれがなるべく無理のない状態で保てるようにと、常にトップに張り付く作戦を彼女は取ろうとしているのだ。
理想を語る姿勢を見せながらも、それの実現のため地に足をつける姿勢というのは、いつも現実に根差す俺にとっても納得できるものがあった。
「確かにそれはそうだな。じゃあウチのクラスの二番目は...」
「井口くん」
と、俺が紙を指でなぞって探す暇すら与えられず即答される。
リサーチの早いこと。
そう思って感心していると、紙の名前の横にそれぞれ振られている番号の存在に今更気づく。
「この番号、もしかしてタイム順か?」
そう聞くと、うん、と楽しそうに、
「そーだよ。女子の分も、ほら」
と言い、女子側の紙を取り上げて俺の方に見せ付けるようにする。あーそりゃ良かったね。
「こんなんいつやってんだよお前」
「え、休み時間とか普通に時間あるじゃん」
何言ってるの、といった感じでさも当たり前かのようにそう返す。
俺だったら絶対しないね。
そもそも俺は授業間通り越して寝てる時もあったりするから、休み時間の概念自体失ってる時があるんだよなあ。
これを俺は「授業またぎ」と呼んでいる。
ダサいので誰にも言った事はない。