作戦会議(リレー編)
とは言いつつも、マックの列に並ぶ今、同じ高校の生徒や他校の生徒のからの目線を最高に感じていた。
人の視線って見なくても意外と分かるもんだからな。
まあ正確に言えばその視線の対象は、この隣にいる山本楓に向けられていると言えるのだが。
「ミナトくんは何にするの?」
そんな視線には慣れているのか、山本は周囲を気にする事なく俺に頼む物を聞いてくる。
「うーん、コーラS」
「えっ、それだけ?!」
山本が驚いた様子で俺に突っ込んでくる。だからなんか近いんだってば。
ほら、周りの目がちょっと厳しくなった気がするからさ。
マジね、俺そういうのじゃないから。
学級委員だから。
通じる訳無いんだよなあ。
「マックで金使う必要ないだろ。小遣いがもったい無い」
「ええ〜、ミナトくん男の子にしては細いんだから、もっと食べなきゃ」
「いや別にマックで太る必要ねえだろ...」
「またそんなんばっかり」
俺の返しにムーっと少しムクれる山本。
いやだからそういうのじゃないから。
別に彼女と放課後イチャイチャしてる訳じゃないから、
睨まないで、男子諸君。
山本さんアナタも、こういう時に限って思わせぶりな事するのやめようね?
先に頼んで席を取っておいた俺の後を追って、山本が階段を上がってくる。
それに気付いた俺は、彼女の方に小さく手を挙げる。
彼女もそれに気付いたようで、トレイを持ってこちらに近づいて来る。
「ありがと」
そう言って俺の向かいに座る彼女。トレイの上には、ポテトとドリンク、そして紙に包まれたハンバーガーが乗っていた。
「...晩飯食えんの?」
「これくらい普通だよー。で、そういう事女子にあんま聞かない」
そう言いながらポテトを一つ口に入れる。
そしてもう一本を取り出し、それを俺の方に差し出すようにする。
「ん、食べていいよ」
「お、おう、サンキュ...」
と、山本の方は見ないように、指だけを突き出してそれをつまむ。
いい感じに伸びたその一本は、硬すぎず柔らかすぎず、そして塩がよく乗っていた。
うまい。
「で、本題だよね」
「そうだな」
山本がリュックからファイルを取り出し、そこからまた二枚の紙を抜き出し、テーブルの上に置く。
一枚は女子、もう一枚は男子の例のデータだ。
男子の方は今日あらかじめ山本の方に渡しておいた。
「じゃあまず分かりやすいというか、最も決めやすい所からね」
「アンカー...だな?」
うん、と頷き、紙を指でなぞるようにして話す。
「アンカーはやっぱり一番足の速い人がいいよね。その時点で一位なら逃げ切り、そうでなければ追い越し。この両パターンに対応できるからね」
「そうだな」
「で、となると」
山本の指がある所で止まる。指には薄くネイルが塗られている。
「海人くん、よね。ウチのクラスだと」
そう言って海人の部分を示した。
「だな。俺も多分海人が一番だと思っていたが、今見た感じ一番速そうだな」
こうして今初めて男子のタイムを見比べて分かったのだが、山本に関しては海人に辿り着くまで随分と早かった。
もしかして俺が渡した後すぐリサーチしていたって事か?
その相変わらずの周到さに、素直に感心させられてしまう。
「にしても、海人速いよな...」
「そうだね、この学校だと6秒切ってくる人は一人しかいないし、かなり速い方だと思う」
「なんでそういう事しってんの」
「え?友達から聞いて調べただけだけど?」
「あっ、ソウデスカ」
しれっと話しているが、凄い事なのだと思う。
その人脈の広さも、そしてその熱量も。
詰める努力も動機も無いが、その差が天と地ほどのものだという事くらい、
俺にだって分かる。
彼女はポテトの先を口でくわえたまま、依然真剣な様子で紙に書かれてあるものを見つめている。
そして一人うん、と頷き、ふと俺の方を見上げる。
不意に視線が合ったので、思わずストローに口をつけた。