遭遇
しばらくすると、後ろから足音がこちらに近づいてくる。
「お待たせ」
そこには制服姿の山本が立っていた。
リュックをその細い両肩にかけ、俺の前に立つ。
「うい」
「じゃあ行こうか」
「てか場所どこ」
「マックかな」
「どっちの」
「ダイエーの方」
「ああ、そっちね」
綾英の生徒が使う通学路の途中には、マックが2店ある。
今山本が言った「ダイエーの方」とは、通学路には直接面していないが、生徒がよく寄り道をする歓楽街の方にあるマックの事だ。
もう1店舗もまあ歓楽街と言えばそうかもしれないのだが、前者の方が通りも広く、人も賑わっているように感じる。
それと、帰りの学校側からは近い。
どうでも良いがどっちがどっちかを言い分けるために、今行こうとしている側の方を、俺は「リア充マック」と呼び、そうではない方と区別をしている。
厳密に言えば、自分が名付けた訳では無く、前のクラスのとある男子がそう呼び始めたのが始まりなのだが。
名前の由来は単純、ただ「こっちのマックの方がカップルの数が多い気がする」、それだけである。
本当にどうでも良かった。
でも慣れてしまったので今もそう呼んで区別している。
「じゃ、行こうぜ」
そう言って俺も立ち上がり、彼女と教室を出る。
よし、今の所は誰も見ていなさそうだ。
そう思い正門へと通じる棟階段を降りようとしたその時。
ちょうど反対に、こちらへ上がってくる二人の女子が見えた。
「あ、サヤー!と二川も!」
嬉しそうに手を振る山本。
遂に会ってしまった、クラスメイトに。
一人は松木さん、でもう一人は二川さん。
書記をやってくれている子だ。
「あ、お疲れーかえちゃん。今日は部活ないの?」
「うん、今日は知美ちゃん休みで」
トモミちゃんとは、おそらく顧問の事を言っているのだろう。
「そっか、で...」
そう言いかけた松木さんの視線は俺の方に向いていた。
ですよね。
松木さんの見る先に気づいたのか山本が、
「ん?ミナトくんとは今日会議だよ、例のリレーの」
堂々と胸を張って言う彼女。それは事実だし、あまりにも山本の方が自然な様子だったので、松木さんもどこか納得した様子だった。
あ、ここは何か思わせぶりな事とか言わないのか。
いや俺が疑い過ぎか。
でもちょっと分かんねえからな、この子は。
「ああ、それかあ。高田くんも頑張ってね!かえちゃん、あんま困らしちゃダメだよ?」
俺には励ましの言葉を、そして山本には注意をする彼女。
何というか、しっかりしてる。
「もーサヤは私を何だと思ってるの」
少しムクれる山本。
いやだから割とそういう風に見えてんだよ、お前は。
何するか分からない感じな。
「ははは。じゃまた明日ね、バイバイ」
そう言って二人は手を振り、階段を上がっていった。
まあ特に誤解されるような事は山本も言わなかったし、あの二人が誰かに自分たちからそういう話を流す事も無いだろう。
まあバッタリ会ったクラスメイトがあの二人で良かった。
...?
待てよ、そもそもクラスで山本を待ってる時も、教室に何人かいたじゃん。
すでにまあまあ見られんじゃねえか、アホか俺は。
決めた、もう気にするのはやめよう。
コイツも全然気にしてない感じだし。