練習の後で
「お疲れ様でしたー!」
なっちゃんが元気に俺たちに挨拶をし、今日の練習が終わる。
進捗でいうと、例の最初の男子だけの演目の振り付け練習は一通り終わり、今は女子も混ぜたフォーメーションダンスに取り組んでいる所だ。
これがまた、なかなか難しい。
「おお、お疲れなっちゃん」
「ミナトくん、だいぶ上手くなったよねえ」
そういって我が子の成長を見届けるように目を細めるなっちゃん。
俺から言えば多少はマシになったようには思えるくらいだが、彼女にとってはそれが俺の大きな成長に見えているのだろう。
「ホントか?」
「うん、ホントホント!それに、こうして続けてくれてるのも奇跡みたいなもんだよー。ミナトくん途中でやめちゃうんじゃないかって、最初の日とかは思ってたもん」
と言いながらホッと胸をなで下ろすようにする。
山本といい、俺は何だと思われてるんですかね。
来てるだけで褒められるって、俺だけだいぶ評価する基準が下がってるよね。
「今はもうそんな心配はしてない?」
「いやちょっとだけしてる」
「まだ信用されてないのかよ...」
そう言って、ガクッと肩を落とすようにして見せる。
もう今日合わせて5回目だ。そろそろ信じてあげて、今のところ皆勤賞だから。
その様子を見たなっちゃんは、またいつもと変わらない明るさで笑ってくれた。
「ははは!ウソだよウソ。この調子で、がんばろーね!みんなも!」
「はーい」
ファイト、と励ます仕草を見せるなっちゃんに、いつものメンツと合わせて返事をする。
そしてお互い別れを告げ、各々自分の次の行き先へと散らばっていく。
俺は着替えと荷物のために、ひとまず教室の方へと戻った。
教室で着替え終わり、しばらく待っていると、山本が一人で中へ入ってきた。
「あ、お疲れ。夏組の方が終わるの早かったんだね」
「だな」
ふう、と行って自分の席の方へ向かう彼女。
友達とではなく、一人で帰ってきたのは幸いだ。
コイツならおそらく友達の前でもお構いなく、放課後俺と帰る関連の話を普通にしそうだからな。
余計な噂は立てたくない、面倒だから。
これが俺の懸念していた事。
「ちょっと着替えるから待っててね」
「はいよ」
そう言って後ろを見ずに、スマホの画面だけを眺める事に徹した。
この学校は特にプールで使う更衣室以外それといったものが無く、女子も男子もこうして教室で普通に着替える事が多い。
特にこの綾英に関して言えば、女子の数が大きく上回っているためか、割と皆意識する事なく着替えを済ましているという印象がある。
とはいっても女子はちゃんとスカートを先に履きながらズボンを下ろしてるし、上も多分、器用に何とかしてると思う。
男子に関しても、女子が着替え始めたら割と自分たちから外に出て自分たちは自分たちで着替えるようにはしているし、まあそれで何とかなっているのだ。
それにもう高校生であるし、これでも一応進学校と謳う学校だ。
そこまで馬鹿な事をする輩がいるとも思えない。