約束
その夜、また何となくスマホを触っていた時の事。
本当スマホって意味もなく開いちゃうよな。
買ってもらった頃ほどでは無いが、もうこれはすっかり生活の一部になってしまっている。
まんまと時代の流れに乗せられている気がして、そう考えると一瞬自分に嫌悪感を抱くものの、結局楽しいから使っちゃう。
この特に何もする事なくスマホ触ってる時間って、マジ良いよな。
スマホ最高!
で、適当に触ってホーム画面に戻ったとき、ちょうどラインの通知が増える瞬間が目に入る。
半ば無意識にそれをタップすると、一番上に「山本楓」とある。
2件新着で入っていて、トップから見える最終のコメントは「スタンプを送信しました」だった。
開かないと用件が分からないやつね。
早く返さないと何となく怒られそうなので、すぐさまトーク画面を開く。
「あした、部活休みだから。応援団の練習終わったら順番とか、作戦練ろうよ、どっかお店で」
とある。
文体で見るとなんか若干冷たさを感じるが、それは気にしない。
きっといつもの山本だ。
その後にはウサギのキャラクターが、「レッツゴー!」と手を挙げているスタンプが続く。
まあ今日は方針をクラスメイトに伝えるに至ったし、本格的に走順などを考えて行こうという話だろう。
とりあえず返事を返してみる。
「わかった で、他は誰がいんの?」
画面をホームに戻し、そのまま部屋のベッドに寝転ぶ。
するとすぐさまアイコンのメッセージ数を表す赤色の通知が増える。
また開くと、もう山本から返ってきていた。
返信はや。
「え、私だけだけど?」
まさかと思って、あえて間接的な質問をしたのが、そのまさかだった。
すると続けざまにメッセージが飛んでくる。
「なに、女の子とふたりとか慣れてないの?」
プププと笑うさっきのウサギのキャラと共に。
やっぱナメてますね、この子。
俺だって女子と二人きりで何かした事くらいあるし?
多分あったはずだから。
無いわ。
あったら覚えてるだろそんな事。
「いや、別にそういうわけじゃねえよ」
そういうわけなのだが、そう返しておいた。
だって放課後にあの山本とふたりで外の店によるとか、ちょっとアレだろ。
また周囲の反応が面倒な事になりそうだ。
「じゃあいいでしょ。そういう事でよろしく」
そしてぺこりと、お辞儀をするウサギのスタンプが付いてくる。
このスタンプ好きだなコイツ。
押してみるとそれはアプリ内のコインで買うスタンプで、おそらく広告動画などを見てコイン集めをしているのだろう。
俺にはそこまでして取ろうとは思えないが。
女子は結構してそうだな、こういうの。
「はいよ」
その後は既読だけがつき、会話はそこで終わった。
明日は普通に応援団の練習もある。
なんか最近すんなり帰れねえよなあ、色々あって。
帰宅部としてはどうかと思うよ。