善意
一通り集計が終わり、クラスメイトたちも皆教室の方へと戻っていく。
俺もそのまま帰ろうと思ったのだが、そこであるものの存在を思い出す。
「これ戻すか...」
下に置いていたスピーカーと、ストップウォッチを体育倉庫に戻さなければならない。
それと、あと、あれか。
山本が今、集めているゼッケンとそのカゴか。
まあ、何とか一人でも持っていけるよな、これなら。
「山本」
おおよそクラスメイトのゼッケンを集め終わった山本に声を掛ける。
「ミナトくんお疲れ。どうしたの?」
振り向いた山本が首をかしげる。
この仕草だけでもう何人かの単純な男子達を落とせそうだった。
もちろん俺には通じない話だが。
「いや、それもまとめて持ってくわ」
そう言って山本の持っているカゴのあたりを指差す。
山本は少し意外そうな顔をして、ヒョイっとそのカゴを俺に渡す。
「ミナトくん、結構気が利くじゃん?」
「いやまとめて持ってった方が効率がいいだろ、無駄な事したくないし、見たくもねえからな」
「またまた〜」
ちょいちょいっと肘を脇腹あたりに当ててくる山本。
はいまた男子が勘違いしますよー。
俺じゃなくてね。
それに、こうやって自分がアピールするつもりも無かった善意を引っ張られると、段々居てもいられない気持ちになってくる。
なので俺はまた、視線を明後日の方向へ向けていた。
「ま、ありがと。じゃあまた明日」
「おう、じゃな」
山本はそう言ってまた小走りで外に突き出ている階段を駆け上がっていった。
忙しい奴だ。
時刻はもうすぐ16時を示し、日の光も一層その柔らかみを増していくようだった。
今日は応援団の練習はなく、6限を終え、早々に部活の準備を始め出す生徒たちの姿が見えてくる。
俺も早く片付けて今日は帰ろうと、各運動部の部室と連なっている体育倉庫の方へ向かった。