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俺には全く関係がない。  作者: みやりく
一人では全てを成し遂げられない。
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適性

「追う側と、追われる側の適性、じゃないか」


「うん、そんなとこ!さすがミナトくん!」


 山本は一人手を叩いて俺に称賛の意を送った。

 

 だが周りはまだポカンとしているようで、


「ミナト、もうちょいくわしく!」


 とトモヤスが説明を求め、請うようにして両手を合わせる。

 

 コホン、と一つ咳払いをし、俺は自分なりの解釈を吐き出す。


「多分なんだが、人によって追う方と追われる方、どちらが得意かってのがあんだよ。で、リレーも大体がどちらかの展開に分かれる。つまり」


「先頭を追うか、先頭として追われるか!だな」


 ようやくピンと来るものがあったのか、トモヤスが俺の言葉に被せるようにそう言った。

 

 山本もうんうんと、頷いていた。

 

 何人かの生徒も、お〜と驚嘆めいた声を上げている。

 

 俺も話していて驚いてるよ。

 ここまで考えないだろ、普通。


「そう。だからこれは上手いこと自分たちの臨むレース展開に持っていくための作戦の一つってわけだ。例えば、中盤は上位にキープしておくくらいがベストで、そこは追う方が得意な人、あるいは終盤で徐々に差をつけて逃げ切りたい時や、序盤の主導権を取りたい時なんかは、追われる方が得意な人とかな」


「それで、鬼と逃げる側の結果で見極めようとしたってことか!」


 と、トモヤスが指を鳴らす。


「多分な」


 山本の方を向くと、彼女は正解、と言わんばかりに親指を立てる。


 周りもまた、お〜と唸った。


 まあこんな所だろう。

 

 俺であれば逃げる、追われる事の方がおそらくは上手い。

 

 反対に自分が鬼の時は、なぜか追い付ける気がしなかった。

 

 思えば、俺は子供の頃から鬼ごっこで鬼になると、決まってもう無理だといつも諦めていた気がする。

 

 ここからまた鬼から元に戻るのが面倒だという気持ちが、俺の追う気を削いでいたのかも知れない。

 

 もしかすると、そういう性格とかもあるかも知れないな。

 

 あるいは、スポーツの種類や、ポジションとか。

 

 とは言ってもたった2分半ごとの時間だ、これで本当に適性があるというのは未だに疑問ではあるが。

 

 それでもこれは勝つための手段。

 

 少しでもその勝率を上げるための、彼女の狙い。

 

 僅差であればあるほど、より多く戦略を練ったり、工夫をした方に可能性があるというのは、確かに理にかなっている。


「ミナトくんすごい、そこまで考えてるとは思わなかった」


 山本が大層驚いた様子で目を丸くしている。

 

 周りからも、なるほど、とか何とかかんとか俺を褒めそやす。


「まあ最後の方は、勘だけどな」


 存外の好反応に、どうすればいいのか分からず前髪を意味もなく触りながら適当に返す。

 

 そして山本が、俺にしか聞こえないような音量で、耳元で囁く。


「意外と、色んなところが見えてるんだね」


 その不意打ちの言葉に思わず体を仰け反らせる。

 

 俺の反応を楽しんでいるのかいないのか、子供のような笑顔を向ける彼女。

 

 周りも見てるのに、何でこう、誤解されそうな事しやがる。

 

 それに、俺が周りの事がよく見えているだなんて幻想だ。

 

 今回は偶然閃いただけだ。

 別に俺はそこまで周囲の事など見てはいない。


「何だやっぱなんかあんのか?!この二人」


 大きな声で井口がはやし立てる。

 

 それに釣られて一転周りも騒つく。

 ほらな、こういう奴がいるから。


「いやちがうね」


 井口が作り出そうとした空気を払おうと反論したのはトモヤスだった。

 

 顎に手を当て、何かを思案しているようだった。


「...ミナト、やっぱお前なんか山本さんに弱みでも握られてんじゃねえのか?そうでもねえとお前が学級委員なんかやる意味がないと思うんだよなー、やっぱ、俺にいつでも相談しろよ?」


「やだなあ、トモヤス君、私はそんな事してないってばー」


 クラスメイトから笑いが溢れる。

 

 トモヤスの発言は個人的には微妙だが、面倒になりそうだった空気を変えてくれた事には感謝したい。

 

 俺を助けようとしてくれたのか、はたまた本当に脅迫の図に見えたのかは、定かではないが。



「あ、チャイム」


 山本がそう口にして初めて、校舎から聞こえるチャイムの音に気づく。

 

 鬼ごっこの時間が終了して残り5分という所だったが、それはたったの5分、という感じでは無かった。

 

 時間の流れというのは不思議だ。


「て事で、最後に今日の回数を教えてほしいんだよね、皆に。捕まった回数と、捕まえた回数。あと、50m走のタイム。ここに表を用意してるので、帰る前に書いてってねー」


 と、いつの間にか手にしていた紙が挟まれたバインダーをクラスメイトに見えるように掲げた。

 

 紙にはクラスメイトの名前が出席番号順に並んだ表が写されていた。

 

 項目ごとにセル分けもされているようだった。

 準備よすぎだろ。


「じゃあ今日はこれで終わります!正式な順番はまた後日教えます、で、最低限バトンパスの練習して、目指せ!一位!」


「おおー」


 片手を突き上げる山本に合わせて、士気を上げる男子たち。

 

 簡単にノせられやがってコイツら。


「お疲れ様でしたー」


 お疲れ様でしたー、とひとまず生徒たちが山本の方に集まりだす。


「あっ、ミナトくん」


 山本が女子たちの対応をしながら俺に話しかける。


「これ、男子の分、ミナトくんがやってもらってもい?」


 と、下に重ねていたもう一つのバインダーを俺に手渡す。


 だから準備が良すぎますって。

 いつこんな事してるんだ、コイツは。


「わかった。はい男子、こっちこい」


「なんだミナトかよー」


「だまれ」

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