自滅
「で、お前の番だぞ、トモヤス」
「お、おう」
そう海人に言われ、少しドキッとする様子を見せるトモヤス。
お前が一番純粋なんだよなあ。
そしてコホン、と一つ咳払いをして答える。
「なっちゃん、だな」
普段の何倍も小さな声量だった。
少しバツが悪そうに頭を触りながら、目線は俺たちから逸らすように斜め下の方にある。
これはさすがの俺でも勘が働いた。
「お前それマジのやつだろ」
「マジだな」
「だな」
俺の言葉に二人も便乗してくる。
「ばっ、ちげえよ!俺もちょっと良いな、って思うだけだ...ちょっとな」
顔を赤らめながら必死にそう否定する。
もう無理があると思うけどな。
「何で良いと思ったんだよ?」
俺同様、悟った海人がニヤニヤしながらトモヤスに尋ねる。
やっぱ海人ってSっ気あるよな。
「いや、実は俺去年も応援団でなっちゃんに教えてもらってんたんだよな。その時からちょっと気になってて」
「へえーお前純粋な奴だなートモヤスー」
海人が俺と同じ気持ちを代弁してくれたので、俺からは何も言わない。
全くその通りだ。
「つっても、俺はお前らと違って顔で選んでるわけじゃねーし?ほら、なっちゃん優しいし、いつも笑顔だしさ」
と、必死に俺たちとの違いをアピールするトモヤス。それに反論するように、
「いやーなっちゃんも十分かわいいだろー」
と、海人が爽やかにそう返す。
確かに、その言い方だと若干なっちゃんに失礼になってるしな。
お前もなんだかんだで顔を見てるって事だ。
男子なんてそんなもんだろ、多分。
まあなっちゃんは普通に性格も悪くないと思うが。
そしてトモヤス、お前は自分でこの話を持ちかけておいて、一つ大事な所を忘れている。
「これ"可愛い"と思う子を言うって話だよな?お前だけガチで"良い”と思う子になってんじゃねえか」
俺の指摘に気づき、ハッとしてまた顔を赤くする。
「なんという誘導尋問...ッ!」
「いやなんも引っ掛けてねえよ...」
「そういう言葉の綾とかじゃねーんだよー。俺はお前らに自分で汲み取って欲しかったのー」
そういって一人駄駄を捏ねた。
「まあそれを俺たちに求めたのが間違いだったな」
アッキーがフラットに正論を投げる。
俺もうん、と頷く仕草を見せる。
「くっそ...」
ガクッと項垂れるトモヤス。
もう一度確認しておくが、俺たちは別に何もしていない。
「ま、がんばれよトモヤス。今年も夏組で教えて貰えるしな?クラスも一緒だし」
海人がポンとトモヤスの肩を叩いて宥める。
コイツの場合はなんか面白がってる感じもありそうだが、今のは純粋なフォローに見える。
「お、そろそろ終わるな」
ストップウォッチを掲げそう呟く。
約5分、ただトモヤスが自滅しただけの恋愛話もそろそろお開きだった。
「終わりでーす、お疲れ様でしたー」
俺が終了の合図を告げ、最後の一組がこちらの方へ戻ってくる。
これで3組全てが終了した。
さて、答え合わせの時間だ。